任天堂が「マリカー」を提訴、著作権侵害の要件について
2017/04/19   知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント

はじめに

 ゲームキャラクター「マリオ」に扮して公道でカートを走らせていた行為が著作権侵害等に当たるとして任天堂が「マリカー」(東京都)に差止と損害賠償を求めていた訴訟で18日、第一回口頭弁論が東京地裁で開かれました。任天堂側は「マリオ」の姿で公道を走る画像を宣伝に使用しており著作権侵害に当たるとしています。今回は著作権侵害に該当するための要件について見ていきます。

事件の概要

 株式会社マリカーは公道で走ることができるゴーカート「マリカー」のレンタル業を展開しております。レンタルの際には任天堂のゲームキャラクターである「マリオ」等に扮する衣装を借りることができ、ゲーム「マリオカート」さながらの雰囲気で東京の公道を走ることができます。海外からの旅行客に人気で利用者の7割は外国人とのことです。同社は「マリカー」を商標登録するとともに社名にも使用しております。これに対し任天堂は「マリカー」はマリオカートの略称であり、社名に使用することは不正競争防止法違反に該当する。またマリオの姿で公道を走る画像を宣伝に使用することは著作権侵害に該当するとして差止及び1000万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

著作権侵害とは

 著作者が著作物を創作したときに、それについての著作権が自動的に発生します(著作権法17条2項)。著作者はその著作物を公表するか否か、どのように公表するかを決める公表権、公表する際に著作者名を表示するかどうかを決める氏名表示権、著作物の内容を変更させない権利である同一性保持権といった著作人格権を有します(18条~20条)。そして著作権の内容として複製権、上演権、上映権、公衆送信権、頒布権、二次的著作物利用券等の権利を持つことになります(21条~28条)。これらを侵害された場合、差止請求(112条1項)、損害賠償請求(114条、民法709条)を請求することができ、また罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金または併科が規定されております(119条)。著作権侵害が生じるためには著作物性、著作権者、依拠性、類似性の4要件を満たす必要があります。

著作権侵害の要件

(1)著作物性
 まず大前提として著作権法上の著作物に該当する必要があります。2条1項1号では「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術又は音楽の範囲に属するもの」とされており思想、感情の表現物である必要があります。それらを満たさない場合は意匠や特許の分野に入る場合があります。

(2)著作権者
 上記著作物に該当しても、著作権侵害を主張するためには当該著作物の著作権者である必要があります。また日本の著作権法で保護されるためには①日本国民を著作者とるすもの、②最初に日本国内で発行された著作物(外国で既に発行されている場合は30日以内に日本で発行されたものに限る)、③条約により定められたもののいずれかである必要があります(6条)。

(3)依拠性
 依拠性とは既存の他人の著作物を利用していることを言います。たまたま偶然に自己の創作物が他人の著作物と一致してしまってもそれは著作権侵害には該当しないということです。この点につき判例も「既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは・・・著作権侵害の問題を生ずる余地はない」とし「既存の著作物に接する機会がなく、知らなかった者は」偶然同一のものを創作しても侵害には当たらないとしています(最判昭和53年9月7日)。

(4)類似性
 既存の著作物と新たに創作したものが類似している必要があります。他人の著作物に依拠していたとしても類似性が無い場合は著作権侵害には当たりません。この点につき判例は「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させ」る場合に類似性が認められるとしています(最判昭和55年3月28日)。つまり通常人が本質的な特徴を感じ取ることができないほどの独自性がある場合には類似性は否定されるということです。

コメント

 本件で任天堂のゲームキャラクターである「マリオ」の「本質的な特徴」は青いオーバーオールに赤いシャツ、Mの文字が入った赤い帽子を被り、口ひげをたくわえた青い目の人物です。そして同様にMの文字が入った赤いカートに乗っております。「マリカー」が宣伝に使用している画像と比べますと、たしかに同様の衣装を着てカートに乗っている姿は通常人から見たら任天堂のマリオ及びマリオカートを想起することができると言えるでしょう。しかし類似性が問題となった他の事例の裁判例からすると、「本質的な特徴」が思想、感情の創作的表現として一致している必要があり、同社の宣伝用画像は創作というよりは、マリオの格好をしてカートを楽しむ人の図を表しているにすぎないと見る向きもあります。したがって著作権侵害には当たらないと判断される可能性もあると言えます。しかし別途不正競争防止法違反に関しては、マリオの著名性を利用しているとされる余地があることから、認められる可能性は相応にあると思われます。以上のように著作権侵害では依拠性と類似性がもっとも重要な要件となります。著作権侵害を受けた場合には本質的な特徴がどのように一致しているかにも注意が必要と言えるでしょう。

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