ベネッセ情報漏洩で2年6ヶ月の実刑判決、「営業秘密」とは
2017/04/05   コンプライアンス, 不正競争防止法, その他

はじめに

ベネッセコーポレーションの顧客情報を流出させたとして元システムエンジニアが不正競争防止法違反に問われていた事件の控訴審で先月21日、東京高裁は2年6月の実刑判決を言い渡しておりました。漏洩させた者だけでなく漏洩を防ぐことが出来なかった企業に膨大な損害を生じさせる情報漏洩。今回は不正競争防止法の営業秘密について見ていきます。

事件の概要

通信教育大手ベネッセコーポレーションは顧客情報に関するデータベースを保守管理会社に委託「シンフォーム」に委託しておりました。同社はさらに複数の管理会社に委託しており、その一つから派遣されていた元システムエンジニアの松崎被告(42)が業務上貸与されていたパソコンに私物のスマートフォンを接続し顧客情報を複製したとされております。ベネッセの発表によりますと、約3,504万件の顧客情報を持ち出し名簿業者に売却していたとされております。本件は名簿業者から名簿を購入した、同じく通信教育事業を手がけるジャストシステムからベネッセの顧客宛にダイレクトメールが届くようになり、顧客からの問い合わせが急増したことから発覚しました。一審東京地裁では本件顧客情報が不正競争防止法の「営業秘密」に該当するかが争点となりましたが、IDとパスワードで管理され社内規定で機密とされていたことから営業秘密に該当するとして懲役3年6月、罰金300万円を言い渡しておりました。

不正競争防止法上の規制

不正競争防止法では企業の一定の情報を「営業秘密」として保護しております。営業秘密に該当する情報を窃取、詐欺、脅迫による取得し、これを使用・開示する行為(不正取得2条1項4号)。不正取得されたものにつき故意・重過失によって取得する行為(同5号)。権利者から開示された営業秘密を不正目的で使用する行為(同7号)等が禁止されます。また営業秘密につきこれらの行為がなされるおそれがある場合には差止請求ができ(3条)、損害賠償請求(4条)や信用回復措置(14条)を求めることができます。また罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金が課されることになります(21条1項各号)。

営業秘密とは

それでは不正競争防止法によって保護される「営業秘密」とはどのようなものでしょうか。2条6項によりますと「秘密として管理され」「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であり「公然と知られていないもの」を言います。つまり①秘密管理性②有用性③非公知性の3つの要件を満たした情報が営業秘密として保護されることになります。有用性とは事業活動等で使用されていたり、経営効率を上げる上で役立つものであることを言います。製造方法や研究データや顧客情報はこれに該当します。非公知性は未だ一般に情報が入手できないもの、つまり情報媒体等によって公開されていないものである必要があります。そして一番重要な要件が秘密管理性です。

秘密管理性

経産省の「営業秘密管理指針」によりますと、秘密管理性が求められる趣旨は秘密として管理しようとする対象を従業員等に明確化し予見可能性、経済活動の安定性を確保することにあるとしています。企業として厳重に管理しているということを明確に示さなければならないということです。それ故相当高度な管理が求められますが、鉄壁の管理まで要求することは現実的ではないとされております。具体的には①情報にアクセスできる者が限定されていること②営業秘密であることが認識できるようにされていることが必要です。IDやパスワードで管理することや、「機密」といった表示を入れること等が該当しますが、どの程度の措置で認められるかは情報の性質や企業の規模、その他の状況等によって異なってきます。裁判例ではパスワード等が設定されていなくても従業員数が10名と小規模である場合には認められております。また業務上コピーして持ち歩くことが多いものであっても秘密であることが明確にしてある場合には認められております。

コメント

本件で一審東京地裁はIDとパスワードで管理し、社内規定で機密とされていたことから営業秘密であることを認めました。そして二審東京高裁では、営業秘密性は肯定したものの、私物のスマートフォンの持ち込みを禁じなかった点に企業側の落ち度が認められるとして一審よりも軽い懲役2年6月を言い渡しました。このように秘密管理性要件は、金庫やIDで管理し、マル秘、機密といった表示をすればいいというものではなく、様々な状況を複合的に判断されております。本件のように営業秘密として認められても、管理の甘さから会社側に一定の責任が認められることもあります。今回の不祥事でベネッセは200億円の対策費を必要としたとされております。営業秘密の管理の際には上記経産省の「営業秘密管理指針」を参考に、秘密の性質を考慮してどの程度の管理が必要かを吟味することが重要と言えるでしょう。

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