広まる役員報酬としての「現物株」、特定譲渡制限付株式とは
2017/04/04 商事法務, 戦略法務, 会社法, 税法, その他

はじめに
日経新聞電子版は3日、昨年解禁された「特定譲渡制限付株式」を役員報酬として採用する企業が増えている旨報じました。ストックオプションとは違った中長期のインセンティブ報酬として注目されております。今回は特定譲渡制限付株式について見ていきます。
特定譲渡制限付株式とは
特定譲渡制限付株式とは、海外では「リストリクテッド・ストック」と呼ばれ役員に報酬として無償で付与される株式を言います。それには一定期間の譲渡制限が付されます。通常は役員としての任期間は譲渡ができないとされ、任期を満了することにより譲渡制限が解除され、自由に売却することができるようになります。定款に記載され、全ての株式の内容として、あるいは種類株式の内容として付される会社法上の譲渡制限とは意味が異なります。これにより在任中に業績を上げ、株価を高めようとするインセンティブが働くことになります。海外では広く取り入れられ、特に米国では7割の企業が採用しているとのことです。
特定譲渡制限付株式の問題点
海外では一般的な役員報酬である特定譲渡制限付株式ですが、日本の法制度上いくつかの問題点がありました。まず会社法上の問題点として、株式を払込をさせないで無償で発行することが認められておりません。株式を発行する際には必ず払込に関する事項を定め、引き受ける者に出資をさせる必要があります(199条1項2号~4号、208条等)。例外的に株式無償割当を行うことができますが、これは全ての株主に持株比率に応じて無償で割り当てるもので、株式分割同様に全体の株式数を増加させることが目的であることから役員報酬には馴染みません(185条)。また他にも税制上の取扱や金商法上の有価証券届出書等における扱いが不透明という問題もありました。そこで昨年4月28日に公表された経産省の手引によって以下のように明確化されました。
会社法上の扱いについて
上記のように会社法では無償の株式発行が認められません。そこで経産省の手引によれば現行の会社法のもとで特定譲渡制限株式を報酬として付与する手法が例示されております。それによりますと、まず役員に業績に連動する金銭報酬債権を付与します。一定の業績連動期間後にその債権を現物出資財産として払込をさせることにより株式を発行します。その後会社と役員との契約によって一定期間の譲渡制限を付けるというものです。会社法上、株式の発行の際には無償は認められませんが、会社に対して有する債権を現物出資することは可能です(207条9項5号)。この手法により会社法の規制の潜脱とならずに特定譲渡制限株式を実質無償で発行することができるというわけです。
税制上の扱い等について
特定譲渡制限株式については税制上の扱いについても明確化されました。一定の譲渡制限期間が付され、会社による無償取得事項が定められており、役務の対価としての債権と引き換えに交付される株式を「譲渡制限付株式」と定義して、付与された者は譲渡制限が解除された日に課税される旨が明らかにされました。また法人税法上も役員が課税される年度に会社の損金として算入することができるようになりました(34条1項2号)。
コメント
以上のように特定譲渡制限株式(リストリクテッド・ストック)を役員報酬として利用することが昨年春からできるようになっております。従来インセンティブ報酬として利用されていたストックオプションは一種の新株予約権であることから、その報酬による利益を現実化するためには行使して定められた払込金を出資し株式を取得することになります。払込金よりも株価が高ければ利益はありますが、低ければそのストックオプションには価値はありません。一方でリストリクテッド・ストックの場合は最初から株式として無償で与えられていることから仮に株価が下落していたとしても報酬として利益は必ず生じます。場合によっては価値がなくなるストックオプションとは違い、業績向上による利益増加のインセンティブのみが働く報酬と言えます。それぞれの特徴を踏まえた上で、柔軟な役員報酬の選択を検討することが重要と言えるでしょう。
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