違法マンションに市が是正命令、建築基準法による規制
2016/11/15 行政対応

はじめに
建築確認の段階では7階建てとされていたマンションが、完成時には9階建てになっているとして大阪府池田市は8日、所有者に是正命令を発しマンション玄関付近に広告書を掲示していたことがわかりました。違法建築物にはどのような措置が講じられることになるのか。建築基準法の規制について見ていきます。
事件の概要
建築会社を経営する男性が2012年に大阪府池田市の中心部にマンション「マテリアル菅原」を建築しておりました。池田市の民間指定検査機関が建築確認を行った際の書類では建築予定のマンションは7階建てとされておりましたが、完成したものは9階建てとなっており、検査機関は検査済証を交付せずに市に通報しておりました。本件マンションは建設計画では7階建てで上階部分は通常より天井が高い構造となっておりました。マンション全体の高さは変更せず、その上階部分に新たに床を設けて2層増やし9階建てのマンションとして建築されておりました。敷地面積に対する延床面積の割合である容積率の上限は、本件土地では240%となっており法令上は7階建てが限界でした。池田市は所有男性にこれまでも再三改築するよう是正命令を出していたとのことです。現在「マテリアル菅原」は建築基準法上求められる確認済証を受けないまま25世帯が入居して運営され続けております。
建築基準法上の規制
一定の規模を持つ建築物を新築、増築、改築、大規模修繕等を行う場合には工事に着手する前にその計画が建築基準関連法規に適合しているかの確認を受ける必要があります(建築基準法6条1項)。これは違法な建築物が建てられるこのにより周辺住民等の安全を害することを防止することが目的です。建築確認では主に接道義務、建ぺい率、容積率、高さ制限等が審査されます。接道義務とは建築予定建物が道路と2メートル以上接していなければならないという義務です。消防車や救急車といった緊急車両の出入りを確保することが主な目的です。建ぺい率とは敷地面積における建物の投影面積の割合です。上から見て建物が敷地に占める割合のことです。容積率とは敷地面積における延床面積の割合です。全階における床面積の合計ですので通常敷地よりも多くなり、100%を超えるものです。高さ制限も含めて、これらは用途地域によってそれぞれ異なります。適合すれば確認済証の交付がなされます。これを受けないと着工できず、また販売広告や売買を始めることができません(宅建業法33条等)。建物が完成したら再び建築主事(指定確認検査機関)に検査申請を行い、検査済証を受けて手続終了となります。
違法建築物について
建築基準法に適合しない建物を建築すると様々な責任が生じることになります。違法建築にも多くの種類があり、構造耐力違反(20条)、防火壁設置違反(26条)、非難・消火基準違反(35条)等の違反設計といったものや、設計図を用いない、設計図に従わないといった設計図違反、建築確認、完了検査を受けないといった手続違反、設計者が建築士でないといった違反事由が挙げられます。これらの違法建築がなされた場合、行政庁は建築主または工事施工業者に対し建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限、その他違反を是正するために必要な措置を命じることができます(9条1項)。また建築基準法には罰則規定が置かれており、20条や26条違反といった重大なものや是正命令違反に関しては3年以下の懲役、300万円以下の罰金、法人に対しては1億円以下の罰金となっており、それ以外の違反でも1年以下の懲役、100万円以下の罰金となっております(98条、99条、105条等)。
行政代執行
除却命令等の是正命令を出しても相手方がそれに応じない場合には、行政庁は相手方に代って自ら措置を講じることができます(9条12項)。これを行政代執行といいます。これについては行政代執行法で別途規定されております。行政代執行法によりますと、まず戒告を行います(3条1項)。このまま義務を履行しないと代執行をします、というものです。指定の期日までの履行されない場合には代執行令書によって代執行の時期、執行責任者、費用を通知します(2項)。そして当日、執行責任者であること示す証票を携帯して執行を行います(4条)。執行は通常委託業者が行うことになります。後日費用の納付が文書で請求されますが(5条)、従わない場合は国税徴収法に基いて徴収されます(6条)。
コメント
本件で建築主は建築確認を受けた設計図とは異なる9階建てのマンションを建築しました。これは違法建築のうちの設計図違反となり重大な違反となります。池田市によりますと最初に是正命令を発したのは2013年とのことです。その後も是正命令が出され、8日には住民等に対しても公告がなされました。建築主側は当初計画していた建物が規制により不可となり、どうしても当初の部屋数が欲しくこのような事態になったとし、違法であることに認識はあったとしています。また是正命令についても、違法建築は他にも多数あり、自分だけに命令が出されるのは納得がいかない旨主張しております。池田市側はこのまま是正命令に従わない場合には刑事告訴も検討するとしています。既に入居者もあり強制的に改築や解体といったことはすぐには難しく、行政代執行も直ちに行われるといったことはないと考えられますが、このまま違法状態が継続した場合は行政側も強硬手段に出る可能性は否定できません。このように建物の違法建築に関しては建築基準法等で厳格に規制されております。巨額の費用をかけて建築してしまっても、是正命令を受けた場合さらに巨額の費用を費やすことになります。建築確認だけでなく、完了検査でも違反が生じないように関連法規に注意を払う必要があると言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報

- 解説動画
斎藤 誠(三井住友信託銀行株式会社 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌))
斉藤 航(株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー)
- 【オンライン】電子提供制度下の株主総会振返りとバーチャル株主総会の挑戦 ~インタラクティブなバーチャル株主総会とは~
- 終了
- 視聴時間1時間8分

- 解説動画
大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間

- まとめ
- 今年秋施行予定、改正景品表示法の概要2024.4.25
- 昨年5月に成立した改正景表法が今年秋に施行される見通しです。確約手続きの導入や罰則規定の拡大...
- 弁護士
- 並木 亜沙子弁護士
- オリンピア法律事務所
- 〒460-0002
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目17番19号 キリックス丸の内ビル5階

- 業務効率化
- Hubble公式資料ダウンロード

- 業務効率化
- Legaledge公式資料ダウンロード

- ニュース
- 会社に対する「就労証明書」の作成強要未遂に無罪判決 ー大阪高裁2025.4.28
- 会社に就労証明書の作成を求めたことで、強要未遂の罪に問われた労働組合員に対する差し戻し審で大...
- 弁護士
- 原内 直哉弁護士
- インテンス法律事務所
- 〒162-0814
東京都新宿区新小川町4番7号アオヤギビル3階

- セミナー
板谷 隆平(MNTSQ株式会社 代表取締役/ 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
- 【オンライン】新サービス「MNTSQ AI契約アシスタント」紹介セミナー
- 終了
- 2025/04/22
- 14:00~14:30