事業譲渡の交渉打ち切りについて
2016/10/26   事業承継, 会社法

事案の概要

 国の承認と異なる方法で血液製剤を製造するなどしていた熊本市の「化血研」と事業譲渡の交渉を進めていた大手製薬会社、アステラス製薬が、交渉を打ち切る方針を決めたことがわかりました。厚生労働省は引き続き、化血研に対し、ほかの製薬会社と事業譲渡に向けて交渉するよう求めていくことにしています。そこで今回は事業譲渡の流れとともに交渉が失敗した事例についてみていきたいと思います。
アステラス製薬と化血研の事業譲渡交渉打ち切り

事業譲渡の流れ

事業譲渡とは
 会社の事業の全部又は重要な一部を他の会社に受け継がせることをいいます。ここでいう「事業」には、一定の事業目的を有する有機的一体的に機能する財産が含まれ、人員、不動産などの資産、取引先、経営上のノウハウなど事業譲渡契約の上で様々な事項を取り決めることになります。

事業譲渡の流れについて
1 譲渡先の企業を見つけます。企業の選定を専門家に依頼する場合もあり、売却概要書を作成する場合もあります。

2 選定先の企業との交渉を行います。この際に機密保持契約を結んでから、詳細な情報を候補企業に開示します。交渉を続けるとした場合にトップ会談などが行われます。

3 基本合意契約の締結 トップ会談を経て問題なければ基本合意書を締結します。

4 相手企業による買収の監査(デューデリジェンス)・条件交渉 デューデリジェンスと呼ばれる、相手企業が事業譲渡する企業の企業価値や、譲受するにあたって法律上のリスクがないかどうかを図る為の監査作業を行います。その後、最終的な条件などを交渉します。

5 取締役会の招集、決議 事業譲渡の契約及び株主総会の招集に関して、取締役会の決議を行います。

6 譲渡会社取締役の過半数の出席でかつその過半数の賛成で取締役会の承認となります。

7 該当従業員との面談 譲り受け会社が従業員を引き継ぐ場合、該当する従業員に事業譲渡の開示をし、面談を行います

8 契約の締結 ここまでの条件を盛り込んだ契約書を作成し事業譲渡契約を締結します。

9 株主総会による決議 株主総会は、原則として総会開催の2週間前まで株主に招集通知を発送し、事業譲渡が実行される日の前日までに行います。重要な財産の全部または一部を譲渡する際は株主総会の特別決議(株主総会で議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)の後、事業譲渡の効力発生日の20日前までに株主に譲渡する事を通知します。また譲受会社が重要な財産の全部を譲り受ける場合には株主総会の特別決議が必要となります。

10 反対株主からの株式買取請求 事業譲渡に書面または反対した株主は、譲渡会社に対し事業譲渡の効力発生日の20日前から前日までの間に株式買取請求を行う事が出来ます。

11 譲渡期日 契約で定めた効力発生日に事業譲渡の効力が生じます。

譲渡手続きの契約までのスケジュールと流れ(出典 事業譲渡デポ)

各種承継手続き

 事業譲渡は、売手企業の個々の財産、権利、債務、契約等を、個別の手続で移転・承継させる必要があります。
動産
 事業に利用する動産については、何らかの形で引き渡すことになります。ただし、通常は、事業譲渡に伴って当該事業に使用する事業所も引き継ぐようなケースが多く、この場合、あえて動産を引き渡す必要があるケースは多くないと考えられます。
登録を要する動産(車両・船舶など)
 登録の車両・船舶については移転登録を行います。
不動産
 不動産(土地、建物)については、法務局にて所有権移転登記手続を行います。その際に、売手企業が設定していた担保権の抹消登記手続を行うこともあります。
賃借権
 事業に利用する賃借の不動産(土地、建物)については承継に賃貸人の承諾が必要です。賃貸人の承諾を得た上で、契約を承継します。この場合、敷金は通常は承継されませんが、現実には敷金や保証金の扱い、原状回復義務の承継について協議しておく必要があります。
雇用契約
 労働者との雇用契約も当然には引き継がれず、個別の労働者の同意が必要です。特に事業元の会社と譲受会社との間で労働条件に差がある場合は、調整に難航する可能性があります。
取引に関する契約
 取引に関連する契約(継続的取引、知的財産等のライセンス)については、承継に取引先の承諾が必要です。取引先の承諾を得た上で、契約を承継し、この場合承継の旨を明らかにする書面を作成します。
登録を要する知的財産権
 特許権、実用新案権、意匠権、商標権など、登録してある知的財産権については、移転登録の手続を行います。
債権
 取引先の同意を得て契約ごと引き継ぐ場合と、すでに取引が終わって債権だけが残っているようなケース等では債権譲渡通知によって承継する場合があります。
不動産のほか、登記を要する財産
 船舶、登記された工場財団、港湾運送事業財団、道路交通事業財団、漁業財団、鉱業財団、観光施設財団等についての登記に関して処理が必要な場合があります。
ノウハウ、のれん
 事業譲渡契約後、又は取引実行後一定の時間で、譲渡元の企業から譲渡先企業に伝えていくこととになります。
 企業再編の方法~事業譲渡 (出典 弁護士法人クラフトマン)

途中で事業譲渡の交渉が打ち切られたケース

 和菓子メーカー「駿河屋」が事業再建のためのスポンサー候補会社として、創業400年近くを誇る老舗「千鳥屋宗家」(兵庫県西宮市)が浮上。事業譲渡の交渉を進めてきたが、従業員の雇用や工場の継続などで話が折り合わなくなり、決裂した事例です。

 介護大手コムスンの在宅介護事業譲渡を巡り、第三者委員会から熊本県の引受先に選定されていた熊進企画が事態を通知し交渉が決裂した。譲渡額など様々な条件を決める際、熊進が求めた経営情報をコムスン側が十分には示さず、交渉が難航していた事例です。

 そのほかにはM&A後に譲渡企業の従業員が離散した場合、譲受企業の不用意な発言でM&A交渉が決裂した場合、M&A後に譲受前の不法行為が発覚した場合、過剰なM&A投資により親会社の経営も傾いた場合が考えられるようです。M&Aの失敗事例(出典 東京商工会議所)

コメント

 事業譲渡の交渉が打ち切られるのは、金額、従業員の再雇用・工場の継続、情報開示、不用意発言、不法行為が原因のようですので、譲渡会社と譲受会社の信頼関係が重要となっているようです。交渉段階で決められるべき問題はしっかり検討して、価値のある事業を残してさらに価値を生み出していくことが重要となります。

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