労基署が千葉県立病院に立ち入り調査、当直勤務に必要な許可について
2016/08/30   労務法務, 労働法全般

はじめに

日経新聞電子版は21日、千葉県立の6病院で労働基準監督署の許可を取ることなく医師を夜間、休日の当直勤務をさせている旨報じました。千葉労基署はこれらの病院の一部について立入検査を実施しました。従業員に深夜・休日の当直勤務に就かせる場合には労働基準法上、労働基準監督署長の許可を要します。今回は許可要件等を概観していきます。

事案の概要

千葉県によりますと、千葉県がんセンター(千葉市中央区)はこれまでに数回、医師を当直勤務させるための許可申請をおこなっていました。しかし勤務内容が通常業務と変わらないとして許可要件を満たさず不許可となっておりました。その後も許可を得ることなく医師に当直勤務をさせている疑いがあるとして千葉労基署が今年5月県がんセンターに立ち入り検査を実施していました。県がんセンターは無許可で当直勤務させていることにつき違法であるとの認識はあったが、医師不足により許可基準を満たす勤務体制を構築することは困難で、早急な解決は難しいとしています。同県がんセンターでは過去に腹腔鏡手術を受けた患者11名が死亡する問題が発覚しており、第三者委員会の調査では医師の過重労働や人員不足が原因である可能性がある旨指摘されておりました。千葉県立の6病院は同様に許可を得ること無く当直勤務に当たらせていることが判明しております。

労基法上の規制について

労基法32条によりますと、使用者は休憩時間を除き労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとしています。この法定労働時間を超えて労働させるためには、会社の代表と労働者側の代表が書面により時間外労働を行う旨協定を結び、労働基準監督署に届出る必要があります(36条)。これをいわゆる36協定と言います。36協定を締結すれば時間外労働が無制限に行えるというわけではなく、一部例外はありますが原則月45時間、年360時間が上限となります。次に労働時間によって一定の休憩を与えることが求められます(34条)。労働時間が1日6時間を超える場合で45分、8時間を超える場合には1時間となっております。また週に最低1日の休日を与え(35条)、時間外労働や休日労働の場合には割増賃金の支払が義務付けられます(37条)。

適用除外について

これら労基法上の規制は一定の場合には適用除外となります。41条によりますと、①農林漁業に従事する場合(1号、別表1第6号、7号)、②管理監督者の地位にある者、③監視・断続的労働従事者に該当する場合は労基法4章、6章、6章の2の規定が適用除外となります。なお深夜労働に関する割増賃金(37条4項)については明文上の規定は存在しませんが実務・判例上適用除外とならず支払を要するとされております(最判平成21年12月18日)。②の管理監督者とは自己や他の労働者の勤務時間等をある程度決定する裁量権を与えられている地位にある者を言います。このような立場の者はある程度労働条件も優遇されており、労基法上の保護の必要性は低いとされております。ここに言う管理監督者に当たるかは職位や名称によって決まるのではなく、職務内容や責任、権限、勤務態様によって決まります。名称や職位だけ管理職のものを付され、権限や態様は他の従業員と変わらない場合を、以前問題となった「名ばかり管理職」と呼びます。そして③の監視・継続的労働とは監視業務や非常時対応等、通常の業務は行わず身体的負担の少ない業務を言います。本件医師の当直勤務もこれに含まれます。

監視・監督業務の許可基準

(1)一般的許可基準
厚生労働省の許可基準によりますと、監視・監督業務に当たるかの一般的な基準は以下のとおりとなっております。
①勤務態様
常態としてほとんど労働する必要がない勤務、原則として通常の労働の継続は許可しないこと。
②宿日直手当
1日または1回につき、宿直勤務を行う者に支払われる賃金の一日平均額の3分の1以上を宿日直て立てとして支払うこと。
③宿日直の回数
宿直については週1回、日直については月1回を限度とすること。
④その他
宿直については相当の睡眠設備を設置すること。

(2)医師・看護師の場合の許可基準
医師、看護師の場合は上記一般的許可基準の細目として以下の基準が挙げられております。
①通常の勤務時間の拘束から完全に開放された後のものであること。
②夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外に、病院の定時巡回、異常事態の報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温等、特殊な措置を必要としない軽度の、または短時間の業務に限ること。
③夜間に十分睡眠がとりうること。
④許可を得て宿直を行う場合に、通常業務と同様の労働を要する場合にはその時間については時間外手続を行い、割増賃金を支払うこと。

コメント

以上のように医師に当直勤務を行わせるためには労基法上の許可を得る必要があります。しかし労基法や厚労省の想定する監視・監督業務というものは本来通常業務に比して身体的負担が軽微で業務に従事していない時間が大半を占めるものであり、それ故に労基法上の例外とされていると言えます。上記医師の場合の許可基準にも、通常業務と同様の労働を常態として行わせる場合は許可要件に該当しないとされております。しかし通常医師の当直、宿直というものは軽度で短時間の検診のみならず、救急搬送患者の対応等、通常業務と変わらない勤務を強いられることが多く、許可基準を満たさないことが大半だと言えます。今年7月にも同様の事例が埼玉県の県立循環器・呼吸器病センターでも生じておりました。このような事態は全国的に発生しているものと思われます。無許可であるか、または許可を取得していても勤務実態が許可要件に反しているというような違法常態のまま営業がなされている状況と言えるでしょう。過重労働を防止しつつ、現場の必要性も考慮し実態に即した立法・行政上の調整が今後求められます。従業員に当直勤務を行わせている場合には、許可基準等、厚労省の今後の動きに注意が必要と言えるでしょう。

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