輸入豚肉脱税で起訴、差額関税制度とは
2016/08/17   税務法務, 租税法

はじめに

豚肉の差額関税制度を悪用して虚偽の申告をし、関税約61億円あまりを脱税したとして、千葉県の畜産物輸入業者の実質経営者ら5人が関税法違反の疑いで起訴されていた事件で、15日初公判が東京地裁で開かれました。以前から悪用が指摘されてきた差額関税制度について見ていきます。

事件の概要

千葉県柏市の畜産物輸入販売会社「ナンソー」の実質経営者とされる田辺正明(70)被告らは2013年4月までの1年間で、豚肉を輸入する際に複数のダミー会社を介在させることによって実際よりも輸入価格を高く見せかけ、申告することによって関税約61億5300万円を脱税したとされております。輸入価格と基準輸入価格の差額が関税となる差額関税制度を悪用し、もっとも関税が安くなる分岐点価格に近い1キロあたり524円近くまで輸入価格を水増しして申告を行っていました。脱税が発覚しないよう複数のダミー会社と別の輸入会社を通した複雑な輸入ルートを経由して輸入し、別の輸入会社が東京税関に申告を行っていたとされております。田辺被告は2007年にも同様の手口で約59億円を脱税したとして逮捕・起訴されており2012年に懲役2年4ヶ月、罰金1500万円、会社に対し2億5000万円の罰金が確定しております。

差額関税制度とは

日本において関税は基本的に関税定率法と関税暫定措置法によって定められております。そして税率の定め方は輸入品の価格に比例して関税額が決まる従価税、輸入品の個数、重量等の数量を基準として関税額が決まる従量税、それらを混合した混合税があります。そして特殊な形態として一定の基準額を定め、その差額が関税となる差額関税があります。差額関税制度がそれにあたり、日本では1970年から豚肉の輸入について採用しております。豚肉は季節によって供給量の変動が大きく、国産と輸入品とで品質の差が小さい割にコスト差が大きいという事情から国内生産者保護を目的として取り入れられました。具体的には①輸入品の価格が低いときには基準輸入価格に満たない部分を関税として徴収し、国内養豚農家を保護、②価格が高く分岐点価格を超える場合には低率な従価税と適用して関税を軽減し、消費者の利益を図るというものです。現在の基準輸入価格は1キロあたり546.53円となっており、分岐点価格は524円となっております。輸入価格が分岐点価格よりも安い場合は基準輸入額との差額が税額となり、分岐点価格よりも高い場合は4.3%の従価税となります。

違反した場合

関税法6条によりますと、関税定率法その他の関税関係法令に別段の規定がある場合を除き「貨物を輸入する者」が関税を収める義務を有するとしています。そして110条では、偽りその他不正の行為により関税を免れた場合等には10年以下の懲役、又は1000万円以下の罰金若しくは併科となっております。未遂の場合も同様となります。両罰規定となっており行為者の属する法人に対しても課されることになります(117条)。

コメント

本件で田辺被告は多くのダミー会社や輸入業者を介在させ、また「ナンソー」の表立った経営者ではなかったことから、関税の納付義務を負う「貨物を輸入する者」に該当するかが争点となると思われます。2012年に確定した前回の事件でも同被告は貨物について処分権限を有さず、利益の帰属主体でもないことから「貨物を輸入する者」には該当せず納税義務は無いと主張していました。しかしこの点について千葉地裁は、実質的に処分権限を有し、実質的に輸入の効果が帰属する者が「貨物を輸入する者」と言うべきであるとし同被告の納税義務を肯定しました。また、差額関税制度は憲法上の営業の自由(22条1項)、財産権(29条1項)を侵害し違憲無効であるとも主張していました。この点についても差額関税制度は一定の問題点が存在するものの著しく不合理であることが明白であるとまでは言えないとして合憲と判断しました。以上からすれば前回とほぼ同様の事案である本件でも被告に実質的な納税義務が認められることはほぼ明白と言えます。また制度自体の無効性の主張も否定されることと思われます。差額関税制度は現在の大規模化した養豚業において国内業者保護という制度趣旨は当てはまらなくなってきたとの指摘もあり、従来の従価税に戻すべきとの声もあります。また、同様の手口で虚偽申告を行い課税逃れを行う例も相当数に登っております。しかし、当面は差額関税制度は存続する見通しであり、違反した場合には本件のように刑事訴追以外にも莫大な追徴課税が行われる可能性があります。2005年には三菱商事が約45億円の追徴課税処分となっております。食肉輸入の際には輸入額の申告に細心の注意を払う必要があると言えるでしょう。

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