東洋ゴム前社長らを株主が提訴、役員の責任とその減免について
2016/08/02   商事法務, 総会対応, 会社法, メーカー

はじめに

東洋ゴム工業の免震ゴム偽装事件に関し、同社個人株主の男性が29日山本前社長ら歴代役員に対し総額24億円を同社に賠償するよう求める株主代表訴訟を提起しました。今回は役員の対会社責任とその減免について見ていきたいと思います。

事件の概要

自動車用タイヤ等を製造販売する東洋ゴム工業は経営多角化の一環として1996年から建物の基礎に使用する免震ゴム製品を販売していました。2015年3月国土交通省は同社の製造販売する免震ゴム性能データに偽装があったとして大臣認定を取り消しました。同社は規格の性能に満たない免震ゴムのデータを改ざんし国土交通省の認定を得た上で154棟の建物に納入していました。これにより同社は約466億円の特別損失を計上していました。同社はこれ以前にも2007年に断熱パネルの製造販売に関して同様の不祥事を起こしており、前社長を含めた歴代役員ら16名はチェック体制やコンプライアンス体制の問題改善に取り組まず同様の問題を引き起こしたとして関西在住の個人株主の男性が今年5月に同社に責任追及の訴えを起こすよう求めていました。

役員の会社に対する責任

 取締役、会計参与、監査役といった会社役員と会社との関係は委任に関する規定に従うことになっております(会社法330条)。役員はその職務を遂行するにつき、善良な管理者としての注意義務を負います(民法644条)。また法令や定款、株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行う義務も負っています(355条)。注意義務の程度はその地位にある者に通常期待される程度のものとされております。これらの義務に反し任務を怠ったときは会社に対して損害を賠償する責任を負います(任務懈怠責任423条)。

責任の減免

(1)責任の全部免除
役員の会社に対する損害賠償責任は総株主の同意により全額免除することができます(424条)役員の会社に対する賠償責任は究極的には株主の利益を保護するためのものであるから、その株主全員の同意があればどのような責任でも免除することができるということです。ここに言う株主は議決権を有さない株主も含まれますが、単元未満株主は含まれません。これは株主代表訴訟の提起権に合わせてあるということです。

(2)株主総会決議による一部免除
任務懈怠による責任の発生につき善意であり、かつ重大な過失がないときは株主総会の特別決議によって責任の一部を免除することができます(425条1項)。免除できるのは最低責任限度額を超える部分となります。また株主総会に責任免除に関する議案を提出するには各監査役の同意も必要となってきます。監査等委員会、指名委員会等設置会社も同様に各監査委員の同意を要します。

(3)取締役等による一部免除
上記一部免除を取締役の過半数の同意または取締役会決議によって行うこともできます(426条1項)。この場合には取締役の同意等によって一部免除ができる旨定款で定める必要があります。この定款による定めを設けることができるのは取締役が2名以上で、かつ監査役等が設置されている会社に限られます。またこの定款の定めがあっても、議決権の3%以上を有する株主から異議があった場合には免除ができません(426条7項)。

(4)責任限定契約
業務執行取締役でない取締役、会計参与、監査役、会計監査人の場合は会社と責任限定契約を締結することによって責任の額の範囲を限定することができます(427条)。(3)と同様に定款による定めが必要となりますが、取締役の人数や監査役等の設置の有無といった要件はありません。監査役等が設置されている場合には定款の定めを設ける議案の提出には各監査役等の同意を要します。限定できる責任の額は最低責任限度額の範囲内となります。

最低責任限度額

上記責任の一部免除に関して、最低限免除できない範囲として定められている額を最低責任免除額といいます。これは役員の種類によって異なり、会社から職務執行の対価として受ける財産の1年あたりの額にそれぞれ定められた年数分を乗じた額となります(425条1項1号、会社法施行規則113条)。代表取締役、代表執行役で6年分、業務執行取締役または執行役で4年分、非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人で2年分となっております。つまり1年分の報酬が1億円の代表取締役の場合は最低6億円の責任は免れないということになります。

コメント

本件で東洋ゴムの歴代役員ら16名は総額24億円の賠償を求められております。東洋ゴムの定款によりますとその25条で取締役会決議による一部免除が出来る旨および責任限定契約を締結できる旨が定められております。任務懈怠が認められても善意かつ重大な過失が無い場合は最低責任限度額の範囲で一部免除がなされる公算が高いと言えます。しかし本件では原告が指摘しているように度々同様の不祥事を起こしていながら防止策を講じた形跡が見られず、一部では偽装を知りながら続行を命じたとの声もあります。その場合には、善意無重過失と認定されず満額の責任を負う可能性も高いと言えます。多くの企業では定款に責任減免に関する規定を置き、社外取締役等は責任限定契約を締結しています。しかしこのように一部免除ができるのは善意かつ無重過失の場合に限られます。昨今の大企業の不正事案のように長年にわたり会社ぐるみで不正を行っていた場合には、責任減免規定を置いていたとしても安心できないという点に注意が必要と言えるでしょう。

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