アベノミクス 最低賃金法 経済理論の対立を背景とした政策のせめぎ合い
2016/07/30   労務法務, 労働法全般

最低賃金法の概略

1 最低賃金制度とは

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度。

2 最低賃金の種類

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類がある。

(1) 地域別指定賃金(9条)

産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められている。地域別最低賃金は、①労働者の生計費、②労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定めるものとされている。労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされている。

(2)特定最低賃金(15条)

特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金。関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されている。全国で242件(平成25年4月12日現在)の最低賃金が定められている。この242件のうち、241件は各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件は全国単位で決められてる(全国非金属鉱業最低賃金)。

3 最低賃金の適用される労働者の範囲(2条1項)

地域別最低賃金は、原則的に、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わない)に適用される。

4 最低賃金の対象となる賃金 

【参照 厚生労働省 HP】

5 罰則(40条)

最低賃金未満の賃金を支払った使用者に対する罰則は、50万円以下の罰金。また、産業別最低賃金にはこの罰則を適用せず、労働基準法第24条(賃金支払)違反の場合に適用される同120条の30万円以下の罰金が適用される。

6 最低賃金法の歴史 

1959 年 最低賃金法成立

1968 年 法改正

1976 年 全都道府県で地域別最低賃金が発足

1978 年 目安制度発足

1986 年 新産業別最低賃金制度が発足

2007 年 法改正

雇用との関係 経済学理論的考察

                                    

1 (新)古典派の失業理論

最低賃金法の雇用に対する影響の良し悪しは経済学において昔から論争になっている。最低賃金が雇用に与える影響が負だという考え方は市場の価格調整機能を重視する古典派経済学者によって主張されてきた。商品というのは、 需要より供給のほうが多いと、 値段が下がることで需要を増やすか、 あるいは供給量が減る。 そうすることで、適正な価格になり、 需要と供給が一致する。(こうした 価格と数量の変化による需給の調整のことをマーケットメカニズムと言う)。古典派によれば、モノやカネのマーケットメカニズムによる需給調整と同様に、労働市場においても雇用量と賃金は労働の需要量(求人量)と供給量の一致する点(均衡賃金)で決定するため、失業は存在しないとされている。最低賃金法は社会保障の観点から、均衡賃金より低い場合は、それより高い水準に最低賃金を設定する。したがって、最低賃金を下回る労働生産性しか持たない人は雇用機会を奪われ、失業が発生するとされている。所得格差を是正するはずの最低賃金が、逆に格差を拡大させる可能性を生じさせるとされている。

参照URL:wikipedia

新古典派の失業理論。wr は実質賃金水準。仮に労働市場に超過需要や超過供給が生じていても常に伸縮的に変化する賃金水準によって調整され、完全雇用 Nf が達成される。​

2 ケインジアンの理論

一方政府による市場への介入の必要性を重視するのがケインジアン。ケインジアンによれば、労働供給というのは、供給が需要より多くて 失業者がいても、 最低賃金法や労組があって、 簡単に価格(賃金)を引き下げることができない。 そのため、需要が増えず、 供給のほうも、人間は何とかして お金を稼いで生きていかなきゃならないから、 短期的には減ることがない。 (賃金が、下がりにくい状況を 「下方硬直性」と呼ぶ)。すなわち、ケインズ派によれば労働賃金は、下方硬直的であり、 それゆえ、マーケットメカニズムが働かず、 失業がなかなか減らない。そこで、ケインジアンは、総需要管理政策(需要の創出)によって、失業の解消を図ろうとする。

参照URL:wikipedia

​w:名目賃金水準、N:雇用水準、D:労働需要曲線、S:労働供給曲線。労働需要曲線と労働供給曲線の交点 Nf は完全雇用点と呼ばれ、この図で示される経済の長期均衡水準である。現在の賃金水準 w1 で働くことを望む人たちは長期均衡水準の Nf だけ存在するが、労働需要が不足しているために現在の賃金水準 w1 で働くことのできる人は N1 しか存在しない。そのため、長期均衡水準との差 Nf - N1 は現行の賃金水準で働くことを望んでいるにも関わらず失業状態にある。この失業を非自発的失業という。政府支出の拡大によって労働需要を増加させ、労働需要を D2 までシフトさせることで非自発的失業を解消することができる。

日本における非自発的失業

日本において非自発的失業が急拡大した時期としては1990年代のバブル崩壊によるものが挙げられよう。完全失業者数は1990年の134万人から、1999年には約2.4倍の317万人となり、調査開始の1953年以来の最高水準を記録するに至った。この失業者の内訳においても「非自発的失業者」は1991年には31万人だったのに対し、1999年には102万人と急増した。

小泉・竹中構造改革 新古典派理論に基づく経済政策とその行き詰まり

2000年代に入って、小泉内閣の所謂小泉竹中構造改革においては、新古典派理論に基づく経済政策が全面的に採用された。最低賃金が数年据え置かれたり、派遣労働業務を拡大した規制緩和策により、労働市場においてマーケットメカニズムを働かせて労働需給を調整し失業を解消させようという狙いであった。しかし、負の効果として、所得格差を増大させたり、非正規雇用を増加させ雇用を不安定にして格差社会を生み出したとの批判が多い。政策の是非を巡って経済理論上の議論は尽きないものの、新古典派理論に基づく経済(労働)政策の緩和策として最低賃金法が見直され出し、今日に至っている。

最低賃金制の役割と限界

橋下徹が率いた日本維新の会が、竹中平蔵氏をブレーンに掲げて挙げた最低賃金法廃止の公約を巡り党内分裂し勢いを失ったのも記憶に新しい。

維新の会が「最低賃金制の廃止」「解雇規制の緩和」を公約に――党内の矛盾次々と明らかに

ゆりもどし 最低賃金法に脚光 アベノミクス最近の流れ

労働の規制緩和と再規制の課題

最低賃金増 「1億総活躍」の土台に 【出典毎日新聞】

最低賃金 平均822円 過去最大、24円上げ 【出典毎日新聞】

中小企業 助成を拡充 最低賃金3%上げ対応 政府方針【出典毎日新聞】
     

どの理論が正しくて、どの政策が有効なのか、歴史は繰り返される。最低賃金の引き上げと合わせて、同一労働同一賃金導入の流れも俄かに活発化している。企業は、賃金水準を上げるために、折角上向いてきた採用増の方針を控えたり、何らかの方法で解雇を増やす対応も必要になるかもしれない。賃金上昇と雇用の維持、労働者の要求に企業はどう応えていくべきか、政府の労働政策の動向に目が離させない。

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