西川ゴム工業が134億円支払い、米国反トラスト法について
2016/07/26   海外法務, 独禁法対応, 独占禁止法, 外国法, メーカー

はじめに

西川ゴム工業は20日、米国内での自動車シール部品の販売に関して反トラスト法に違反したとして米司法省に1億3千万ドルの罰金を支払う合意をしました。今回は米国の独占禁止法に当たる反トラスト法について見ていきたいと思います。

事件の概要

広島県広島市に本社を置く西川ゴム工業は自動車用シール部品を製造販売するメーカーです。西川ゴム工業は米インディアナ州に生産子会社を置き、米国内の複数の日系自動車メーカーに自動車用シール部品を販売してきました。米司法省によりますと2000年1月から2012年9月にかけて自動車の防音・防水のためのシール部品に関し不正入札や価格操作に加わったとして反トラスト法違反の疑いがかけられておりました。直接関与したとされる元社員3名は既に起訴されております。西川ゴム工業は20日米司法省と司法取引を行い1億3000万ドルの罰金を支払う旨合意しました。同社シール部品はカナダの工場にも販売されておりますが影響は米国内に留まるとしてカナダ当局は措置を取らない方針です。

反トラスト法とは

反トラスト法とは米国の競争法で日本における独占禁止法に当たるものです。反トラスト法という名の法律があるわけではなく、複数の競争法群から構成されております。その中心となるのはシャーマン法(1890年制定)、クレイトン法(1914年制定)連邦取引委員会法(1914年制定)の三法です。価格カルテル、入札談合に関してはシャーマン法が規定し管轄執行期間は司法省反トラスト局となっております。差別対価、排他条件付取引、企業結合等についてはクレイトン法が、その他不公正な競争方法については連邦取引委員会法が規定しております。これら三法の他にも各州では独自の反トラスト州法を制定しております。農林漁業、新聞業、保険業、海運業等の一部産業は特別法により反トラスト法の適用除外となっております。

規制される行為について

(1)シャーマン法による規制
シャーマン法1条ではカルテル等の不当な取引制限を禁止しております。違反した場合には法人は1億ドル以下の罰金、個人は100万ドル以下の罰金もしくは10年以下の禁錮またはその併科となっております。罰金については違法行為によって得た利益、または与えた損害の2倍の額にまで増額することができます。行為要件として共謀等の「共同行為」が認められる必要があります。次に反競争効果の大きさによって類型化されることになります。入札談合や価格カルテルといったいわゆる水平型カルテルの場合は反競争効果が大きいことから共同行為がなされたら個別に立証を要せず当然に違法となります(当然違法の原則)。再販売価格の拘束等のいわゆる垂直型取引制限については個別的に反競争効果が立証された場合に違法となります(合理の原則)。

(2)クレイトン法による規制
クレイトン法では差別対価の禁止(2条)、抱き合わせ販売、排他条件付取引の禁止(3条)、企業結合規制(7条)、役員兼任規制(8条)が規定されております。シャーマン法の補完的な規定で競争の減殺のおそれがある行為等の規制を行っており罰則はありません。企業結合を行う場合の事前届出を義務付けており、7条規制以外での適用はほとんど例がありません。

(3)連邦取引委員会法による規制
連邦取引委員会法5条では不公正な競争方法、不公正又は欺瞞的な行為・慣行を禁止しております。クレイトン法同様にシャーマン法の補完的規定ではありますが、連邦取引委員会法の規制行為は包括的でシャーマン法、クレイトン法の行為も含むことになり、反競争効果が小さいうちから芽を摘むという意味合いがあります。

コメント

本件で西川ゴム工業は入札談合や価格操作の嫌疑がかけられておりました。これらはシャーマン法1条に抵触するおそれがある行為です。当時の社員3名は既に刑事訴追されており、司法省の手続がこのまま続行すれば相当高額の罰金が課されることは免れない状況だったと言えます。司法省反トラスト局では審査に協力した場合には刑事訴追を減免する制度(いわゆるリニエンシー制度)を採用しており、今回の司法取引もその一環と言えます。反トラスト法に違反した場合、このように行政・司法上の制裁のみならず私人等からの民事上の賠償請求がなされることもあります。反トラスト法違反行為によって財産上の損害を受けた者はその損害の3倍額および弁護士費用を含む訴訟費用の賠償を求めることができます(クレイトン法4条)。また損害を受けるおそれがある場合には差止訴訟を提起することもできます(同16条)。反トラスト法違反の罰金はその算定方法の違いから日本の独禁法の課徴金に比して相当高額になることが多々あります。また懲罰賠償制度のある米国での民事損害賠償の額も日本では考えられない額に登ります。米国での事業参入の際には日本とは異なる米国独自の法規制を念頭に置いてコンプライアンス体制を構築することが重要と言えるでしょう。

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