自社の商標を他人に先取りで出願されたら…
2016/05/18 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, その他

はじめに
17日特許庁は自らの商標を他人に先取りで出願されてしまっても出願を断念してしまわないよう呼びかけました。いわゆる「悪意の商標出願」については以前も取り上げられましたが、これがなされてしまった場合でも出願却下や無効審判によって出願の機会が回復する場合があります。今回は悪意の商標出願が却下、無効となる場合を見ていきたいと思います。
悪意の商標出願とは
いわゆる悪意の商標出願とは、他人の商標がまだ登録されていないことを奇貨として第三者が先取りして登録してしまうことを言います。その目的は本来の権利者に商標権を買い取らせたり、許諾料を支払わせたり、業務を妨害するといったことにあります。日本の著名な商標が海外で先に登録され、その国での業務活動ができなくなるといった事例は以前から相当数に上っていました。昨今こういった事例が日本国内でも目立つようになってきました。それを受け特許庁では自ら出願しようとしていた商標が他人に先に出願されたとしても多くの場合は出願手数料も納入されていない瑕疵ある出願であり却下されるものであることから、出願を断念しないよう呼びかけました。商標法3条および4条には出願しても登録できない場合が規定されております。
商標法4条
商標法4条1項の各号には出願しても登録できない場合が列挙されています。国や自治体等の公共機関と混同するような商標(1号から6号)、他人の肖像、氏名、名称、雅号等を含むもの(8号)等があげられていますが悪意の商標出願に関係し得るものとして10号と19号が挙げられます。10号では需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標は登録できない旨規定されております。これは未登録の場合であっても消費者の間で広く認識されていれば、他者はそれと同一か類似の商標は登録できないことになります。19号は不正の目的をもって日本国内または海外で広く認識されている商標と同一か類似するものは登録できないとしています。この規定は日本では広く知られていないものでも海外では広く認識されている商標を保護するものです。このようにすでに広く知られている商標はたとえ未登録であっても保護されていると言えます。
商標法3条
商標法3条1項柱書には「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標について」商標登録を受けることができる旨が規定されております。上記4条の除外事由に該当しなくても自己の業務上その商標を使用する場合にあたらなければ登録されないということです。自己の業務とは無関係に本来の権利者の業務を妨害し、対価を得ようといった不正な目的の場合は登録できないということになります。「自己の業務にかかる」商標に該当するかにつき裁判例では①本来の権利者の商標の使用経歴②本来の権利者の業務内容③先に出願した者の商標指定役務への使用状況④商標の類似性⑤商標の由来・背景⑥先に出願した者の他の出願数や指定役務内容等を客観的な事実から総合的に判断しているようです(知財高裁平成24年5月31日アールシータバーン事件)。これらの事情から「自己の業務にかかる」商標に該当しないと認められた場合には先に登録されていたとしても無効となります。
コメント
上記アールシータバーン事件で先に商標登録を受けていた被告は、登録後一度も指定役務である飲食物の提供に登録商標を使用したことはありませんでした。またアールシータバーン商標以外にも自己の業務と関係の無い商標を44件も登録していましたが、いずれの商標も使用したことはありませんでした。これらの事情から業務に使用する以外の目的で多数の商標を収集していたに過ぎないと判断されました。このように日本国内では悪意の商標出願は却下されることがほとんどで、仮に登録されても無効審判や行政訴訟を経て無効とされることがあります。商標出願がされますと出願公開広報や特許情報プラットフォームに公開されますので、まずこれらで自己の商標が既に出願されていないか確認し、もし出願されていたとしても特許庁に問い合わせた上で適切な対応をすることによって自己の商標権を守ることは十分に可能と言えます。特許庁はこういった悪意の商標出願や特許の冒認出願等に対しては昨今重点的に対策を講じていますので、早々と断念せず対応することが重要と言えるでしょう。
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