オリンパス内部通報訴訟に見る公益通報者保護制度の問題点
2016/03/16   コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法, メーカー

はじめに

 内部告発に対する報復で配置転換されたとして、オリンパスに対し同社社員が2600万円の損害賠償と職位の回復を求めていた裁判で、2月18日和解が成立しました。今回は公益通報者保護制度と内部告発の問題点について見ていきたいと思います。

事件の概要

 平成19年6月頃、オリンパス社員の濱田氏は上司が取引先会社の機密情報を知る社員を引き抜こうとしていることを知り、取引先及び関連会社の信頼を損なうとして社内の通報窓口にその旨通報しました。それを受けた窓口担当者は通報内容と濱田氏の名前を当該上司に報告。それにより濱田氏はそれまで経験のなかった部署への転属が命じられ、外部への接触も制限されていました。内部告発に対する報復人事であるとして配転無効の確認を求める訴えを起こしていました。濱田氏勝訴判決確定後もオリンパスは濱田氏をチームリーダーから降格させる等の報復行為を繰り返していました。そこで濱田氏は2012年に再度職位の回復と2600万円の損害賠償を求める訴えを起こしていました。

公益通報者保護制度

 公益通報者保護法は、内部告発者を保護することによって、国民の生命、健康、財産その他の利益を守り社会の健全な発展を促進することを目的として制定されました。内部告発等を行った従業員に対し、それを理由とする解雇は無効であり(3条、4条)、また不利益な取り扱いもしてはならないとしています(5条)。しかし消費者庁の検討会によりますと、この制度には様々な問題点が指摘されています。

問題点

(1)禁止行為が限定的
 公益通報者保護法が禁止する行為は内部告発者に対する解雇、不当人事といった労務関係に限定されております。しかし実際には社内での氏名の貼り出し、関連会社等への氏名通報内容等の通知、会社から逆に名誉毀損、機密漏洩等を理由に損害賠償請求等の事例もあります。現行法ではこれらの行為は対象外であり、告発者の保護に欠けると言われています。

(2)匿名性保護の欠如
 内部告発を行った者の氏名や通報内容等を会社や違法行為者等に漏洩することによって、告発者への不利益が生じることになります。しかし現行法では告発窓口担当者等に告発者の情報について漏洩してはならない旨の規定は存在しません。それにより告発対象者等に情報が筒抜けになっているのが現状だと言われています。

(3)実効性の欠如
 現行法では内部告発者に対する解雇、不利益行為は無効である旨規定がされているだけです。つまり実際にこれらの行為が行われても罰則や制裁を受けるわけではありません。それ故に内部告発者はこれらの行為に対しては、不当人事の無効確認、損害賠償請求と言った民事上の救済手段に訴える以外に道はありません。それでは救済までに相当の時間と費用を要することになり、場合によっては泣き寝入りとなることもあるでしょう。このことから3条~5条の禁止規定には実効性は無いと言われています。

規制強化への動き

 以上の指摘を受けて、消費者庁の検討会ではこれらの問題点を是正する案が出されています。まず禁止行為については対象通報者の範囲、禁止行為の拡充とガイドライン等で内容の明確化が図られる方向で議論されています。匿名性保護については、通報窓口担当者の守秘義務、告発者特定行為の禁止等の規定を盛り込む。第三者窓口の活用を促進する等が検討されております。そして実効性の確保については、罰則規定や指導、公表、課徴金といった行政措置の追加が検討されています。

コメント

 本件オリンパス事件もこうした公益通報者保護制度の不備がもたらしたものと言えるでしょう。食肉偽装や大規模不正会計といった世間を揺るがす不祥事は内部告発によって明るみに出ることが多々あります。これらの密行性の高い違法行為を早期に解明しコンプライアンスと国民社会の健全な発展を確保するには内部告発者の保護は欠かせないと言えるでしょう。一方で会社にとっては内部告発者は会社の重要な秘密を漏らし、重大な損害を与える裏切り者と見えるかもしれません。しかし本件オリンパス事件のように紛争が泥沼化すれば、会社は違法行為を行った上に、不正を正そうとした社員を糾弾していると見られイメージの悪化は避けられないと言えるでしょう。コンプライアンス体制の構築と共に、その実効性を担保するため、内部告発者を保護するシステムを充実させることが会社のクリーンなイメージ作りにも役立つと思われます。

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