証券監視委の処分態様の変遷
2016/02/09   金融法務, 金融商品取引法, 金融・証券・保険

1 課徴金処分

(1)処分態様の変遷
 昨年12月、2000億円を超える利益の決算訂正を出した東芝の会計
不祥事において、証券取引等監視委員会は、金融庁に70億円超という
過去最高額の課徴金処分勧告を行った。
 証券不祥事を機に1992年に発足した監視委は長らく刑事処分である
検察への告発を最大限活用してきた。そこに証券取引法(現・金融商品
取引法)の改正で2005年4月から課徴金制度という行政処分が加わった。
この課徴金制度が導入されて以降、刑事告発の件数は減少傾向だが、
課徴金処分勧告の件数は急増し、今も年間50件前後と高水準を維持
しており、刑事処分から課徴金処分へのシフトが鮮明になっている。
(2)課徴金処分が選択される理由
 なぜ、課徴金処分は多用されるようになったのか。
 1つ目の理由は軽微な事案も摘発しやすいためだ。告発はそのまま
裁判に繋がり、裁判は手続が煩雑であるため、不正利得の金額が多額で
ないとなかなか告発がなされないという事情があった。一方で、課徴金
処分は裁判に比べて簡易な審判手続でなされ、裁判に比べて監視委側の
立証ハードルが低いこともあり、比較的少額のインサイダー取引で
あっても事案が摘発しやすいといえる。
 2つ目の理由は、課徴金で対応したほうが市場参加者にも利点が大きい
との判断だ。告発から刑事処分となれば資料の差し押さえなどで訂正作業
ができなくなる恐れがあり、企業に訂正作業を早く実施させ市場に本来の
姿を示すことに重きを置き、課徴金処分が選択されるケースも多いようだ。
また、一般的に上場企業が課徴金処分や刑事処分の対象となった場合は、
上場廃止になる可能性や許認可の取り消し、株主代表訴訟が起こる可能性
があるが、刑事処分を受けた場合の方がより企業への悪影響は大きく、
株価の急激な下落等により市場参加者が不利益を被る恐れがある。この
不利益を回避するために、監視委が告発ではなく課徴金処分につながる
勧告を選択するケースも考えられる。

2 手続の流れ

 処分が増加傾向にある課徴金制度の手続の流れを確認する。
(1)課徴金制度は、証券監視委による調査(金商法26条、177条)から始まる。
(2)調査の結果を受け、違反事実が認められるときは、証券監視委から内閣
総理大臣及び金融庁長官に対して勧告がなされる(金融庁設置法20条)。
(3)監視委からの勧告を受けた内閣総理大臣は、金商法178条に基づき審判
手続の開始の決定をすることができる。審判手続開始決定がなされた場合、
内閣総理大臣は審判官・指定職員の指定をする(金商法180条2項3項、
181条2項)。
(4)審判手続きにおいては、まず審判手続開始決定書の謄本が被審人に送達
される(金商法179条3項)。審判手続開始決定書には審判の期日及び場所、
違反事実、課徴金の額等が記載される(金商法179条2項)。
 審判手続開始決定書の送達を受けた被審人は、審判手続開始決定に対する
答弁書を提出する(金商法183条)。このとき、違反事実及び課徴金の額を認める
旨の答弁書が提出されないときは、審判期日が公開で開催される。審判期日
においては、被審人の意見陳述(金商法184条)、参考人・被審人の審問(金商法
185条、185条の2)、被審人による証拠書類又は証拠物の提出がなされる
(金商法185条の3)。
 なお、答弁書において違反事実及び課徴金の額を認める旨の答弁がなされた
ときは、審判期日を開くことを要しない(金商法183条2項)。
(5)審判期日を経て審判官による決定案が作成され、内閣総理大臣に提出
される(金商法185条の6)。
 この審判官作成の決定案に基づき内閣総理大臣が課徴金納付命令等
決定をする(金商法185条の7)。決定には、課徴金納付命令決定、違反事実が
ない旨の決定、課徴金納付を命じない旨の決定の3類型がある。
(6)課徴金を納付する場合、2ヶ月以内に国庫に納付する(金商法185条の7第21項)。
  課徴金納付命令決定に不服がある場合、30日以内に裁判所へ課徴金納付
命令決定の取消しの訴えを提起することができる(金商法185条の18)。

3 最後に

 積極的な課徴金処分の活用は健全な証券市場を維持するために一定の
機能を果たしているとの評価がある一方、過去の課徴金処分勧告が
金融庁の審判手続で覆された例は数件しかなく、客観的に勧告の正当性
が検証されているのか疑問視する声もある。また、監視委の発表文は非常
に簡素で、処分対象のどのような行為が金商法に抵触しているか理解でき
ない案件もあるとの指摘もある。処分時に監視委が公表する情報が少ない
と、なぜ処分の対象となったのかが分かりづらく、株式市場や企業が萎縮
してしまう恐れが生じる。
 監視委はライブドア事件や村上ファンド事件などを手掛け、市場の番人と
称された。市場の番人としての影響力が増した今こそ、監視委には丁寧
な説明を求めたい。

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