リコールが抱える課題
2015/12/25   コンプライアンス, 民法・商法, その他

1.はじめに

 商品の自主回収(リコール)といえば、昨年大きく話題になったぺヤングの虫混入事件がまだ記憶に新しいのではないだろうか。このリコールについては、最近大きく報道された事例はなかったと思われるが、実際は、少し調査すると、食品のみならず、電機・ガス用品や自動車、医薬品といった様々な分野で商品回収がなされており、その情報があふれかえっていることがわかる。そこで今回は、リコールの現状について触れてみたい。

2.リコールの法制度

 リコールに関する法制度上の一般原則としては、消費者基本法11条がある。この条文では、①消費生活の安全を害するおそれのある商品の事業者の回収、②消費生活の安全を害するおそれのある商品・役務に関する情報の収集・提供が掲げられている。そして、それぞれの製品ごとに関係法令が存在することとなる。例えば、食品であれば食品衛生法、家庭用品であれば有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律、自動車であれば道路運送車両法、医薬品なら薬事法、といった具合だ。これら各法律の文言において、事業者の回収責務や安全性を確保する責務、リコールの勧告や回収命令等が規定されている。

3.リコールの現状と課題

 リコールというのは、何も各関連法令に違反し安全性に問題があると認められた場合に限らない。法令違反はリコールが実施される理由の一つにすぎないのである。他の理由としては、健康被害へのおそれ、表示不良といったものが挙げられる。消費者の健康に影響がない場合でも、ブランドイメージの確保といった消費者との信頼関係構築のためにリコールが実施されることもあるのである。そして、多くの企業では、実施基準を作成するなどしてリコールの実施に備えているとのことだ。問題が発生した際には、迅速な対応ができるような体制が大方整えられているといえるだろう。
 それでもリコールには課題が尽きない。問題となった商品についての事実確認や、原因究明、リコールを実施するか否かの判断、回収方法や回収情報の発信の仕方などである。対応が遅れたり、判断や方法を誤ったりすると、場合によっては、最善の措置を採ろうとしなかったとして消費者から非難され、企業の社会的信用を失墜させる可能性もあるからだ。
 また、リコールには情報発信のための広告費用や回収費用といった様々な部分でコストが発生する。リコールに関係して発生する費用が企業に与える影響は決して小さなものではないのである。

4.おわりに

 商品の安全性に対する消費者の意識が高まっている現代、企業は商品の安全性を確保する対策を構築することが強く求められている。とはいえ、安全対策を万全にすることには限度がなく、コストも増加する一方である。これに対し、各関連法令に違反せず安全性が確保されているといえる場合であっても、消費者との信頼確保等のためにリコールに踏み切る場合もあることは今回の記事でも触れた通りだ。そして、リコールに要するコストも決して少なくはない。安易な自主回収判断はできる限り避けたいところでもある。
 商品の安全性を確保しつつ、リコール実施のリスクをいかに低下させるか、といった事前準備や、問題が生じた場合の対応をいかに迅速に行い、消費者との信頼関係や社会的信用を失墜させず事態を収束させられるか、といった対処方法において、最善の措置を講ずるための判断力やバランス感覚が企業には常に要求されているといっても過言ではないだろう。

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