企業における実質的な奨学金肩代わり制度と法的リスクについて
2015/12/22 法務採用, 労働法全般, その他
1、奨学金返済の肩代わりによる人材確保
奨学金の返済を肩代わりして人材確保につなげる企業や自治体が増えています。
低価格めがねチェーンのオンデーズも社員の奨学金返還を実質的に肩代わりする制度を導入していると12月19日付日本経済新聞電子版が報じました。
奨学金を借りる学生の実情とオンデーズの取り組み、そして徳島県の取り組みについてまとめました。
2、奨学金を借りる学生の実情について
日本学生支援機構によると、大学生の奨学金利用率は、1990年代には20%台だったのが2010年には50%を超え、修士・博士の学生に射たっては60%を超えています。
そして、日本に普及しているのは奨学金という名前の教育ローンです。多くの学生が利用している日本学生支援機構の第二種奨学金も利息が付く完全な借金になっています。近年、日本学生支援機構も滞納者が多いので強い取立てを行い滞納者をブラックリスト入りする処置を始めています。これに対して反発した学生がデモを起こすなど奨学金の滞納は社会問題となっています。
3、オンデーズの取り組みについて
オンデーズは2014年12月から奨学金返金救済制度を導入しています。学生時代に受けた奨学金の返還を続けている従業員に対して返済分を毎月の給与に上乗せする仕組みを構築し、上乗せは返還が終わるか、退職するまで続きます。この制度を構築した背景は、奨学金を借りている学生が初任給が高い企業に流れる傾向にあることが背景にあります。
そして、オンデーズの狙いは、店頭での接客が大きな鍵を握る流通関連業界で接客好きの優秀な人材を確保しようとするものと思われます。
4、徳島県の取り組みについて
徳島県では、県内企業の正規職員として3年以上就業した場合、日本学生支援機構などから借り入れた奨学金総額の2分の1(上限100万円)か3分の1(上限70万円)を就業4年目から5年間にわたり分割肩代わりする制度を設けています。
徳島県のねらいは、県内企業に就職する大学生らの奨学金返還を肩代わりし地元定着を促すことにあると思われます。
5、問題点について
オンデーズの取り組みは、就職してすぐに離職すると借金を肩代わりしただけというリスクを抱えることになります。このリスクを回避するために、あらかじめ違約金の特約を締結すると賠償予定を禁止している労働基準法16条と抵触し違法となる可能性があります。
また、徳島県の取り組みもオンデーズと同様の問題を抱えており、こちらの方は肩代わりの額が多く審査がいい加減な場合には、公費を濫用したとみられ住民監査請求がなされて住民訴訟に発展する可能性もあります。
6、まとめ
オンデーズの取り組みは、大手企業や都市部の地方自治体には見られない取り組みです。このオンデーズの取り組みは、平均賃金の低い流通関連の接客業に優秀な人材を集め店頭での接客を通じて顧客を確保して企業の成長につなげる目的があると思われます。
他方、徳島県の取り組みは、過疎化が進む地方で若者を確保し地方産業の活性化を図ることが目的であると思われます。
オンデーズと徳島県の取り組みは、奨学金返済に苦慮している人の助けとなるとともに企業の発展や地方の再生につながる取り組みであるといえます。
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