プロダクト・バイ・プロセスクレーム、最高裁が判断へ
2015/08/03 知財・ライセンス, 特許法, その他
1そもそも特許発明とは
平成27年6月5日、最高裁判所がプロダクト・バイ・プロセスクレームを一定の要件の下で認める判決を下した。
特許とは発明の利用の独占権を発明者に認める制度(法2条3項、68条)である。特許権の対象となる発明には、物の発明、方法の発明、物の製造方法の発明の3種類が明文上認められている(2条3項各号)が、それぞれ認められる権利の内容が異なり、如何なる発明として取り扱われるかは原則として請求者のクレーム(特許請求の範囲 法36条2項)の記載方法により決められる。
例えば餅を焼いてもくっつかない金網を発明した場合、「餅を焼いてもくっつかない金網」として記載して物の発明と請求することもできれば「餅を焼いてもくっつかない金網の製造方法」と請求して物の製造方法の発明として請求することもありうる。一般に、物の発明は最も強大な権利であるため、請求者は物の発明として特許出願することが多い。
2クレーム記載の問題点とプロダクト・バイ・プロセスクレーム
新たに発明された物質については、名称によって物質として特定できないため、物の構造によって物として特定したうえで物の発明として特許出願されるのが一般的である。しかし、物質の構造の把握はときに困難であり、物の製造方法によってしか物を特定できない場合があり、そのような場合に物の発明として特許出願できないことは不当であるとして、製造方法によって物を特定するという方法が必要となる。プロダクト・バイ・プロセスクレームとは、文字通り物の製造方法によって物を特定する方法である。
しかし、クレーム(特許請求の範囲)は特許権が認められる範囲であり、自らの行為が特許権を侵害するか判断できるようにするため、その記載には明確性(36条6項2号)が求められ、上記のように如何なる発明かで権利の内容、侵害となる行為の内容が異なるため、物の発明か物の製造方法の発明かの区別がしにくいプロダクト・バイ・プロセスクレームは無限定には認めることができないと解されてきた。例えば、「方法ABCによって生成される物質α」と記載されたクレーム(特許請求の範囲)がある場合、物の製造方法の発明かプロダクト・バイ・プロセスクレームによる物の発明かの判断に迷うこととなる。
3従来のプロダクト・バイ・プロセスクレームの取扱い
これまでのプロダクト・バイ・プロセスクレームの運用は、知的財産高等裁判所の大合議判決(知財高裁平成24年1月27日)によって行われていた。同判決は、「物の特定を直接的にその構造又は物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」という事情の下で、プロダクト・バイ・プロセスクレームを認め、そのような事情が認められない場合には、物の製造方法の発明として、限定的に権利を認めてきた。
4今回の最高裁判決の内容と影響
しかし、今回の最高裁は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である」として、プロダクト・バイ・プロセスクレームを認める判示をしつつ、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」とし、それ以外の場合には明確性(法36条6項2号)を欠くと判示し、プロダクト・バイ・プロセスクレームの要件を厳格化した。
この最高裁判例を前提とすると、プロダクト・バイ・プロセスクレームとして認められるためには従来以上の厳格な要件が必要となる。また、クレーム(特許請求の範囲)の明確性は拒絶事由(49条4号)であることから、明確性を欠くクレーム(特許請求の範囲)はそもそも特許を受けることができなくなるため、今後は発明した物の構造等から直接にクレーム(特許請求の範囲)を記載できない発明者は、確実に取得できるよう物の製造方法の発明として出願するか、不確実ながら物の発明として出願するかの判断を迫られることとなる。
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