収益還元法と非上場株の株価 最高裁決定より
2015/04/10   商事法務, 戦略法務, M&A, 会社法, その他

事案の概要

本件は、相手方を吸収合併存続株式会社、A社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併に反対したA社の株主が、A社に対し、抗告人の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、会社法786条2項に基づき、価格の決定の申立てをした事案である。

非公開株式の算定方法

非公開株式の算定方式は大きく分けて①純資産方式(純資産額によって定める)、②収益方式(純利益額等から算出されるキャッシュフローに基づいて定める)、③配当還元方式(配当額によって定める)、④批准方式(類似会社の資産・利益状況を参考に定める)の4つがある。

今回問題となっている収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法)は、②収益方式の一種であり、現在の資産価値ではなく、将来の収益獲得能力を株価に反映できるため、合併後も事業活動を継続するM&Aの場面では株式の価値を正確に反映する方式である。しかし、その一方で収益還元法は、収益能力を算定する基礎となるキャッシュフローの算出に恣意性が入ることが問題とされている。

本件の争点と原審の判断

本件の争点は、この純利益額や資本還元率に関する争いではなく、非上場会社であるA社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされたときに、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合、当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)を行うことができるか否かにあった。

この点に対し原審は「非上場株の換価が困難なことは株価に影響しており、減価は相当」と判断し、株主側が最高裁に不服を申し立てていた。

最高裁決定の内容

①786条2項の株価決定方法
会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は、非上場会社の株式の価格の算定についてはどのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量(※)に委ねられている。その際、その評価手法の内容、性格等からして、考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されない。

(※) 裁判所が算定手法を決定する場合には、鑑定人の意見が考慮されると考えられる。本件では原審において鑑定人から「本件では収益還元法を用いることが望ましい」との意見がある。

②非流動性ディスカウントと収益還元法の関係
非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものである。一方、収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。

③株式買取請求権の趣旨
吸収合併等に反対する株主に、公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨は、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を、株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものである。

以上から、最高裁第1小法廷は「非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である」として、原決定を破棄した。

決定全文はこちら

コメント

本決定は、非上場会社のM&Aにおける株価決定方法について収益還元法を用いる場合には、流動性ディスカウントを行うことができないとするものである。

この決定の射程には注意が必要で、少数株主の保護の必要性の高い中小規模の上場企業や、企業利益・損失の配分に関与できないことを理由とする減価(少数株主ディスカウント)への適用の可能性も十分考えられる。このような場合で事業再編時の株価を決定する際には考慮に入れると良いだろう。

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