再就職でのトラブル!?
2015/04/01 労務法務, 労働法全般, その他
社員の退職時のトラブル
ある社員が、現在勤めている会社を退職した後、同種の企業に再就職し、または、同種の会社を起業する場合、会社とトラブルになることがある。具体的には、前の会社の営業ノウハウや顧客情報等が競業会社に流出してしまうため、会社が新たな起業の差止めや、元社員に対して損害賠償を請求するといった、裁判沙汰になるおそれがある。こうした退職に関するトラブルについて、会社側から、どのような予防策、解決策があるのかを見ていこうと思う。
競業避止義務とは何か
労働者は、会社と雇用契約を結び、その在職中に競業行為をして会社に著しい損害を与えてはいけないという法的義務を負っている。これを競業避止義務と言う。
この義務に関して問題となるケースで、よく耳にする職業・業種・職務としては取締役、学習塾、専門性の高い業務を担当していた人などであるが、労働者であれば誰しもが負っている義務であるため、例に挙げた人たち以外の労働者にとって無関係ではない。
退職後も競業避止義務を負うのか?
問題となるのは、この競業避止義務は退職後にも負うべきものなのかという点である。会社側からすると、企業情報が流出した場合、その会社活動に影響が生じ、最悪の場合会社は損害を被ることがある。
一方で、憲法上、人は職業選択の自由という権利を有している。そのため、原則として労働者は、退職後の競業避止義務により、自由に職業が選択できないということはない。この義務を負うのは、競業避止義務を負うという個別の特段の契約を結んだ場合のみである。
もっとも、個別の契約を結んでしまった場合でも、契約どおりの競業避止義務を負うのかというと、必ずしもそうではない。裁判所は、職業選択の自由が認められる以上、合理的範囲にその義務が限定されるとしている。
では、その合理的範囲はどのように決められるか。具体的には、①使用者のみが有する特殊な知識等が害されるか、②労働者の在職中の地位や職務内容、③競業禁止の期間や地域の範囲、④労働者のキャリア形成の経緯、⑤労働者の背信性、⑥代償措置の有無、内容といった基準で裁判所は判断している。②労働者の職務内容については、形式的ではなく、労働者の具体的な職務内容が問題となる。また、③競業禁止の期間について、約2年間までの競業禁止期間なら妥当であると判断される。⑥代償措置は退職金等の額や機密保持手当の有無によって判断される。
これらの基準により、退職後の競業避止義務の有無と範囲が制約される。
今後企業が競業避止義務に対してとるべき措置について
退職後の競業避止義務の問題に関して、退職後の社員の行動が把握しにくいことを考えれば、会社は、退職前に予防策を講じておくのが好ましい。
仮に、会社が事前に何も対策を講じなくとも、労働者が前の会社で行っていた業務が企業にとって重要であり、当該競業行為の背信性が前の会社に対して高いと認められれば、例外的に、競業避止義務違反が認められることもある。しかし、例外的で限定的なケースでしか義務違反が認められないことを考えれば、退職前に何らかの措置を採っておくべきである。
企業は、就業規則の整備、退職時の誓約書作成等により、退職後の競業避止義務に関する問題を回避しうる。ただし、当該規定や契約の内容が、上記①から⑥までの基準を逸脱していないかに留意するべきである。また、一口に社員と言っても各人が様々な業務を担当しているので、その業務内容に応じた競業避止義務規定を作成するべきである。
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