高度プロフェッショナル制度の導入について
2015/02/17 労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要
厚生労働省の労働政策審議会は2月13日、働いた時間と関係なく成果によって賃金が決まる新しい働き方を創設する報告書をまとめました。(「今後の労働時間法制の在り方について」)この制度は「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれ、アベノミクスの成長戦略の一環として労働基準法改正の成立・実施と共に導入される見通しです。
制度内容
時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者に声に応えて、働いた時間ではなく成果で報酬が決まる新たな労働時間制度のことをいいます。近年多くの企業で年俸制が盛んに導入されていますが、年俸制では基本的に時間外労働につき割増賃金の支払義務がある点で異なります。
対象者は、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者に限られ、一定の年収も要件とされます。(現段階では年収1,075万以上を予定)報告書によると現段階では、具体的に、金融商品の開発業務、金融商品ディーリング業務、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務、一部の営業職などが想定されています。
また、制度の適用を望まないものには適用されず、制度の適用を希望する者に限られます。
制度のメリット
現行の裁量労働制度はうまく機能しているとは言いがたく、一方で、報酬に関して時間ではなく成果で評価されることを希望する労働者の数は少なくありません。同じ業務を行った労働者でも残業をして仕事をする労働者の方が給与が高くなるという問題が解決され、不公平感が解消されます。また、労働時間を弾力的にコントロールできることから時間的な余裕も生まれ、趣味や家庭などに時間をあてることができます。
制度の問題点
結局のところ、成果を達成するまでは長時間労働を余儀なくされることも少なくないはずです。そして、高すぎる成果が求められ、際限なく働いたために心身の健康を害したり過労死を招くかもしれません。制度の適用には本人の同意が必要となりますが、使用者と労働者には力関係に大きな差があるので、個人が同意さえすればこの制度を適用できるというのであれば、ある意味で危険な制度と言えます。さらに、今後、対象業務が広がって年収要件も緩和されることが予想されますので、上記のような問題がより多く生じます。
制度の導入にあたって企業が注意する点
このような成果主義的な制度の下では、労働者の評価は使用者の広い裁量に委ねられることになります。そこでは、成果目標の設定、業績評価の基準、評価の具体的な運用、苦情処理の手続きを労働契約書や就業規則で明確化しておく必要があります。性別や年齢、政治的信条など法律上考慮してはいけない事柄や個人的な感情などを評価の要因とすることは違法となりえます。
また、報酬は時間ではなく成果とは言っても労働者の健康管理も企業として行うべきであって、結果的に企業の業績に関わってくることであります。そこで、会社での就業時間の上限を定めた上で実際の就業時間を記録として残しておくことや年次有給休暇取得を推奨したり義務付けることなどが考えられます。
コメント
先進国の中でもとりわけ労働時間が長い日本ですが、今国会で成立の見通しの労働基準法の改正や高度プロフェッショナル制度の導入などの流れの中で、今後、労働時間法制のあり方が大きく変わることとなります。この機会に、企業の管理部門の方は従業員との労働契約や労働条件について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
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