長時間労働の温床「固定残業制」とは?
2015/02/13   労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要

「固定残業代」制度の説明がないまま、長時間労働を強いられたとして、東京都の20代男性が2015年2月12日、勤務していた不動産仲介会社「うちナビ」(渋谷区)を相手に、未払い賃金など約370万円の支払いを求め、東京地裁に提訴した。事件の概要は以下の通りである。

男性は2014年5月に新卒で入社し、都内の支店に配属された。求人票には「基本給30万円」と書かれていたが、基本給に月60時間分の残業代15万円が含まれるとの説明はなく、実際の残業は月150~200時間であったにも関わらず、追加の残業代は支払われなかった。上司からのパワハラもあり約2カ月で退職に追い込まれた男性は、慰謝料や未払いの残業代など約370万円を損害賠償として請求したものである。

今回は、この事件で問題となっている固定残業制について、その内容と問題点を説明する。

固定残業制とは

固定残業制とは、残業代を基本給の一部に含めたり、定額の残業手当として支払うことで、予め残業代を固定する賃金体制をいう。定額とすることで、残業時間を計算して個別に残業代を計算する場合と異なり実際の残業時間に関わらずその額を支払うことができることから、経理上の負担を軽減することを目的に採用される制度である。

本来、固定残業制を導入する場合には、
1)定額残業代を残業代として支払う旨の規定が、明確に就業規則および雇用契約書に定められていること
2)定額残業代部分と通常の賃金に当たる部分が就業規則や雇用契約書において明確に分けられていること
3)定額残業代を超える時間外労働が発生した際には、その超えた時間にかかる残業代を別途支払うこと

が必要であり(ワークフロンティア事件、東京地裁2012年9月4日)、また就業規則や契約書に固定残業制を盛り込むには使用者と労働者間の合意が必要となる。

しかし、固定残業制の実態は、このような条件を満たすことなく残業時間に関わらず固定額を支払うために運用され、さらには基本給の一部とした残業代の支払に、「月の時間外労働が80時間を満たない部分については支給しない」等の条件を設けられた事例(大庄事件 H23.5.25、労働判例1033号24頁)もある等、長時間労働の温床となる違法な運用がされていることから、問題となっている。

コメント

上記の固定残業制の内容からすると、固定残業制は最低限の残業代を定めることにより、経理上の負担を軽減する制度であり、長時間労働に対して残業代の上限を定める制度として採用することはできない。また、固定残業制を適法に採用したとしても、残業時間の管理は必要であり、残業時間が長時間となる場合には経理上の負担軽減効果も薄くなる。さらに、契約書や就業規則に固定残業制を導入するためには、従業員との個別の合意も必要となり、採用に必要な手間も大きいと考えられる。

企業法務としては、残業代削減策として固定残業制を用いるのではなく、残業時間の申請の制度を整備することや、残業が長時間となる場合については休憩時間を計算して残業時間を控除することにより、労働時間の管理体制を整える形で残業代の適正化を図る方が得策だろう。

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