忘れられる権利と企業の立ち位置
2014/11/19   法務相談一般, 民法・商法, その他

「忘れられる権利」とは

「忘れられる権利」とは、プライバシー保護のための新しい権利の概念である。インターネットの発達により、ホームページ上などに各種の個人情報が永年消えずに残るようになったことから、適切な期間を経た後にまで情報が残っている場合、これを削除したり消滅させたりできる権利が個人にあるべき、という考え方に基づくものである。
インターネットの発達以前においては、ある事件について、その時々の状況をニュースで流しても、報道後長い年月が経過すれば、事件関係者についての詳細な情報は忘れられると共に、ほぼ消え去るのが一般的であった。
 しかし、インターネットの発達と社会への浸透により、あらゆる事柄がホームページ上に記録され、その情報は消え去ることなく、永年にわたって衆目にさらされ続けるようになってきた。さらにGoogleなどの検索エンジンによって、古い情報を誰でも掘り起こすことが可能となった。こうした社会環境の変化により、過去の個人にまつわる情報を抹消する権利として提唱されたのが、「忘れられる権利」である。

「忘れられる権利」の裁判例

 「忘れられる権利」の裁判例の代表的なものとして、2014年5月13日 欧州連合(EU)司法裁判所による判決がある。これは、自分の名前をGoogleで検索すると1998年の自宅の担保差押えの新聞記事へのリンクが表示されたことに不満を抱いた男性の訴えにより、米インターネット検索大手Googleに対して不適切あるは過度な個人情報を削除するように命じた判決である。
EU司法裁判所の判事らはGoogleに対して、検索の目的に関連して、また経過時間を考慮して「妥当性がなく、不適切あるいはもはや適切でない、ないしは過剰」なデータの削除を求めることは可能だと判断した。これは、個人の「忘れられる権利」を認め、古いまたは不適切な情報へのリンクを削除するよう要求する権利を個人に与えている。

 また日本では、2014年10月9日に東京地裁は、日本人の男性がGoogleに対し検索結果を削除するよう求めていた仮処分申請につき、検索結果の一部を削除するよう命じる決定を下した。この判決では、男性が自分の名前を検索すると、事実とは異なり過去に犯罪行為をしたかのように連想させる結果が多数表示されるため、人格権が侵害されているとして、処分を求めたものである。東京地裁は、Googleに対し、「検索結果から『男性は素行が不適切な人物』との印象を与え、実害も受けた」として男性側の請求を認め、男性が過去に犯罪行為をしたかのように連想させる230件の検索結果の内120件を削除するように命じた。この決定は、上記EU司法裁判所による判決の影響を受けていると考えられる。

コメント

 今回、判決の対象になったGoogleを含め一般的な検索サイトは、様々な情報を永続的に残してしまう可能性を秘めている一方で、インターネットを効率的に利用する上で重要な役割を持っており、インターネット社会の中心に位置していると言える。このことから、検索サイトなどを運営するIT関連企業はもちろん一般企業も、「忘れられる権利」による個人の情報の扱いに留意しつつ、ネットワークビジネスを行っていく必要があり、個人としても、一人一人が情報をアップロードすることのリスクを考えながらネットを利用していかなければならない。

 また、今回紹介した「忘れられる権利」の判決は、あくまでも個人の情報に関するものであったが、企業においても不祥事や風評被害などが一度インターネット上に情報が公開されてしまった場合には、その後数十年にわたり、企業の業績や採用活動にデメリットになる情報が残ってしまう可能性がある。そのため、将来的に企業に対しても、インターネット上に残っている情報の扱いを考えていく必要性がある。
 以前から、GoogleやYahoo!などの検索エンジンの検索結果の表示順位を上位に押し上げるサービスは多く存在していたが、近年では、インターネット上の風評被害や誹謗中傷対策から、検索エンジンで検索にかからないようにしたり、情報の削除を引き受ける専門会社も多く設立されている。2013年には、風評対策事業者による初の業界団体「風評被害対策事業者連絡会」が設立され、銀行や大手不動産産業などの約100社が契約し、サービスの利用に数十万円から数千万円を支払っている。
 これらの事実からも、今後はネットワーク上に残り続けている情報の取り扱いに関して、個人はもとより企業についても十分に議論の余地はあるのではないか。

参考URL

グーグルに「検索結果の削除」命令 国内初か、東京地裁(朝日新聞)
風評被害対策事業者会(知恵蔵mini)
銀行から個人まで駆け込む ネット風評“掃除業”が急拡大
忘れてもらう権利 - データ保護規則案17条 - (総務省)

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