本の「自炊代行」知財高裁判決でも差止め
2014/10/23 知財・ライセンス, 著作権法, その他

事案の概要
2012年、本の内容をスキャナーで読み取って電子データ化する作業を請け負うスキャン代行業いわゆる「自炊代行」について、著作権法で認められている私的複製には当たらないとして、作家の浅田次郎さんら7名が代行業者に対し、自炊行為(複製)の差し止めと損害賠償を求めて、東京地裁に訴えを提起した。
当訴訟で代行業者側は「顧客の手足として、私的複製を補助しているだけ」との主張をした。しかし、2013年9月、東京地裁は「顧客は本を送付後の作業には全く関与せず、業者が主体となって複製しており、私的複製とはいえない」として、複製行為の差止めと損害賠償を命ずる判決を下した。これを受け、代行業者側が知財高裁に控訴していた。
2014年10月22日、知財高裁は一審と同様に、「自炊代行」の著作権侵害を認め、業者側に複製行為の差止めと損害賠償を命じた。
コメント
著作権法上、私的使用のための複製行為は認められている(法30条1項)。個人が私的利用のために著作物を複製するのであれば、著作権者に対して経済的損失をそれほど与えることはないだろうという考えからである。例えば、個人が通勤通学の際に聴けるように、買ってきたCDをパソコンに取り込みipodに移す行為等である。
私的複製にあたるかは、①私的使用目的であること、かつ②使用する者が複製をしているかで判断される。
今回の訴訟では、a)複製の主体は誰か、b)私的複製にあたるか が主要な争点となった。代行業者側は「顧客の手足として、私的複製を補助しているだけ」で、あくまでも複製を依頼した顧客が自身の使用のために(①)、顧客が複製をした(②)と主張した。
しかし、裁判所は、顧客が本の送付後の作業には関与せず、代行業者側がスキャン複製に必要な機材を用意し、複製して顧客に納品することから、業者が事業主体として複製行為を行っていると指摘し、a)について代行業者が主体であると判断。b)についても、業者の営利を目的として(①にあたらない)、顧客である不特定多数の利用者に代行業者が電子ファイルの複製を行っている(②もあたらない)として著作権法で認められる私的複製にはあたらないとした。
顧客から送付された本自体をスキャン後廃棄したとしても、データはコピーが容易で、インターネットに違法アップロードされるなどの危険もある。今回の判決では、その後の著作権侵害の危険性も鑑み、複製主体を厳格に解したものと考えられる。
代行業者の中には、著作権フリー・著作権切れなどの著作権を侵害しないよう対象を限定して代行を行っているものもある。電子書籍化される本も徐々に増えてきているものの、見たい本が都合よくスキャン可能な対象となっていたり、電子書籍化されていたりする訳ではない。
複製技術の進化、電子化への社会のニーズを考えると、著作権法の改正を検討するとともに、本の電子化後に原本の破棄、データも完全削除するといった代行業者への共通した厳格なルール作りをするなどして、対応していくことが求められる。
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