事業者による労働者の安全管理はどう変わるか~労働安全衛生法改正案について~
2014/06/05   労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要

現在、労働安全衛生法の一部改正案が国会にて審議中である。今回の改正案は昨今の労働災害の状況を踏まえ、労働災害を未然に防止することを目的として厚生労働省が主導し作成された。改正案には現在制度上規制されていない化学物質の取扱いにつき対応義務を設ける規定や、メンタルヘルス対策の充実を図る規定が盛り込まれている。今回はこの改正案を見てみたい。

胆管がんの労災を受け、化学物質管理を見直しへ

印刷会社で使用される溶剤が原因と見られる胆管がんが昨年3月に労災として認められてから、全国で同種の胆管がんの労災認定が相次いでいた。こうした事故を受けて、それまで個別に規制されていない化学物質についても、安全データシート(SDS)(※1)を公布する義務のある物質については、事業者に危険性や有害性等を調査し、結果に基づき必要な措置を行う(※2)ように義務付ける制度が今回の改正案には盛り込まれている。これまで個別規制がなされていない化学物質についての調査と措置義務は努力義務であったが、リスクのある物質の取扱いに包括的な規制をかける狙いだ。

従業員のストレス管理も義務化へ

大企業では既に行われているところも多いメンタルヘルス対策だが、小規模事業場ではまだ導入が遅れている状況にある。本改正案では労働者の心理的な負担の程度の把握のために医師又は保健師による検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務付けている。さらにこの検査結果を労働者に通知し、希望する者に対しては医師による面接指導を実施し、問題がある場合は医師の意見を聴いた上で、作業の転換、労働時間の短縮などの適切な就業上の措置を講じる義務付けもなされている。なお当面は従業員50人未満の事業場については努力義務とされる。

受動喫煙や重大な労働災害を繰り返す企業への対応も

その他に職場での喫煙や労災常習化企業に関する制度なども盛り込まれている。

喫煙に関して、これまでは全面禁煙や空間分煙を全事業者に義務付け、飲食店などにのみ当分の間これを一定程度緩和するという制度であった。これを、受動喫煙防止を念頭に事業者・事業場が個々の実情に即した適切な措置をとる努力義務制度へと変更し、国も喫煙専用室の設置などを行おうとしている企業に必要な援助が行えるようにする方針である。禁煙・分煙の義務化よりも、国が企業の努力を支援をしやすい制度へと変えた形になる。

また複数の事業場で死亡災害や、障害等級7級(※3)以上の重大な労働災害を繰り返す企業については、国が改善計画の作成の指示を出し、これに従わなかったり、不十分な計画であったときに変更の指示に従わなかったりした企業の会社名を公表する制度を創設する。

他にも本改正案には危険性の高い機械の製造などに必要な検査機関で外国に立地するものについて対応する制度や、工場の建設物・機械等に関する昨今の技術進歩を反映した規制の見直しも示された。

(※1)安全データシート:対象となる化学物質が含まれる製品を他の事業者に譲渡・提供する際に、その化学物質の特性及び取扱いに関する情報を事前に提供するためのもの。国際的に標準化されており、日本でも640物質につき交付が義務付けられている。本改正案に関連すると、これまで個別に危険・有害性の調査義務があった物質が116なので、調査義務が大幅に拡大されることになる。
(※2)
危険性又は有害性等の調査等に関する指針
(※3)
障害等級表(厚生労働省)

コメント

労働者の健康状態の維持は生産力の向上に直結する。昨今の労災の状況を受けた化学物質規制や、軽んじられがちなメンタルヘルスの管理についても規定が改正案に盛り込まれることは望ましい。しかし一方で、小規模事業場にとっては新たにメンタルヘルス管理に必要なコストが大きいという問題も立ち上がってくる。おそらくそうした観点から法令の実効性を担保するために、現在の企業内健康診断にあわせた制度として、かなりの間規則上50名未満の事業場については努力義務となることなどが予想されるだろう。もちろんメンタルヘルスの管理について特に関心が低いのは小規模事業場であるので、50名未満の事業場にも可能な限り管理を行ってほしいところである。まずは政府には、実効性の担保をした上でメンタルヘルス管理の重要性について啓発や管理制度導入の補助など促進も行ってほしい。

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