オリンピックあやかり戦略の落とし穴?どこでも使えるわけではない「ガンバレ!ニッポン!」
2013/10/07   商標関連, 商標法, 不正競争防止法, その他

事案の概要

日本時間の9月8日,2020年のオリンピックの開催地を東京とすることが発表された。国内は56年ぶりに開催されるスポーツの祭典に向け,意気が高まっている。特に,開催に向けてのインフラ整備などで見込まれる経済効果は数兆円とも言われ,景気回復に向けての起爆剤としての期待も高い。

もっとも,「オリンピックだから…」といってどのような商業活動も許されるというものではないことに留意を要する。オリンピックに関する知的財産やイメージの利用について,JOC(日本オリンピック委員会)は無断使用や不正使用を「法的にも罰せられます」として強く戒めている。

事案の詳細

JOCは,同団体のマークやエンブレム,オリンピックやアジア大会のエンブレムは商標法や不正競争防止法により保護されていることを発表している。同団体のホームページによれば,保護の対象となる知的財産は,JOCのマーク・エンブレム,五輪のマークでおなじみのオリンピックシンボル,各大会のエンブレムマーク・マスコット・ピクトグラム,大会名称をはじめ,楽曲やポスターにまで及ぶとされる。

「OLYMPIC」や「五輪のマーク」はIOCにより商標権として登録されている。また,「オリンピック」という名称や,「ガンバレ!ニッポン!」というフレーズもJOCが商標権として登録している。そのため,これらを広告や商品にすることは商標法および不正競争防止法に違反する危険が生じる。商標として無断で使用された場合,使用の差し止めや予防措置,損害賠償請求の対象となる(商標法36条1項,38条,民法709条)。同様に,不正競争防止法上も使用差し止めや損害賠償の対象とされている(不正競争防止法3条1項)。

もっとも,商標法上商標権は登録時に指定した商品に関して認められるに過ぎない。そのため,指定商品以外での使用は商標法上の問題とならない。IOCが登録する「OLYMPIC」の商標は,大会開催やスポーツ講演会の企画・運営,広告が指定され,JOCが登録する「オリンピック」の商標は,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスクが指定されているにとどまる。その結果,指定商品以外で用いることに関して商標法上は問題ないことになる。

また,不正競争防止法は,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用」することや,「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」が禁じられているに過ぎない(いずれも不正競争防止法2条1項1号)。そのため,「スポーツの祭典」や「我が国56年ぶりの世界大会」などのフレーズが直ちに不正競争防止法に反することはならないことになる。

それでも,他意なく用いた「オリンピック」の文字が商標法や不正競争防止法に抵触する危険は払拭できない。多大な経済効果が見込まれるオリンピックではあるが,あやかったマーケティングも注意が必要となる。

以下,参照判例
最高裁判所第3小法廷 平成9年(オ)1046号 平成12年 4月25日判決
最高裁判所第2小法廷 平成9年(オ)1391号 平成10年12月18日判決
最高裁判所第3小法廷 平成3年(オ)1805号 平成 4年 9月22日判決

コメント

商標法・不正競争防止法ともどこまでが規制の対象となるかは極めて曖昧である。JOCとしては,公式スポンサーからの協賛金が様々な費用に用いられている以上,無関係な企業等による名称使用等を戒めたいという目的であろう。それでも,たとえば商店街の八百屋や魚屋が「オリンピック記念」といった売り出しを行えなくなる危険まで孕むのはいかがなものだろうか。

商標法や不正競争防止法の杓子定規な運用ではなく,使用者や使途などを実質的に踏まえ,柔軟な運用を行うことが望まれよう。

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