橋本市長 朝日新聞社に対し提訴検討
2013/04/12   法務相談一般, 民法・商法, その他

事案の概要
日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は10日、週刊朝日が昨年10月に自身の出自などを報じた問題で、「慰謝料請求してきれいさっぱりする方がいい」と述べ、同誌の出版元である朝日新聞出版などに対し、慰謝料を請求する考えを記者団の前で明らかにした。
  昨年10月の記事については、同社が連載を打ち切ったことなどから、橋下氏も謝罪を受け入れていた。ところが、今月2日発売の同誌に「石原慎太郎代表の復帰と賞味期限切れで焦る橋下市長」との記事が掲載されたことに橋下氏が憤慨。一度は「ノーサイド」とした昨年10月の記事について、「法的措置を取ります」と自身のツイッターで表明した。
橋下氏は記者団に「記事が間違っていたことは週刊朝日も朝日新聞も認めている。報道機関だからといって免罪符を得るわけではない。加害者と被害者(の関係)は永遠につきまとう話だ。慰謝料請求するには訴えるしかない」と強調した。
週刊誌に関する最近の訴訟の動向
【2013年2月7日 福岡地裁(田中哲郎裁判長)】
週刊朝日(朝日新聞出版(東京)に対する損害賠償請求)
「週刊朝日」の記事で名誉を傷つけられたとして、福岡県古賀市の竹下司津男市長(44)が発行元の朝日新聞出版(東京)や当時の編集長ら3人に1000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟の判決で、福岡地裁(田中哲郎裁判長)は同社側に200万円の支払いを命じた。謝罪広告は認めなかった。
【2013年3月13日 最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)】
週刊現代(講談社側への賠償命令確定)
大相撲の貴乃花親方夫妻が「週刊現代」などの記事で名誉を傷つけられたとして、講談社側に損害賠償などを求めた訴訟で、最高裁13日の決定で同社側の上告を退けた。これにより、計847万円の支払いと謝罪広告の掲載を命じた二審判決が確定した。
⇒http://www.corporate-legal.jp/houmu_news1202/
【2013年4月10日 松山地裁(浜口浩裁判長)】
フライデー(講談社に対する損害賠償請求)
愛媛県警の職員だった30代女性に性的暴行をしたとして、女性から損害賠償請求訴訟を起こされた同県警の男性が、訴訟に関する週刊誌「フライデー」の記事で名誉を侵害されたとして、発行元の講談社と女性に計1120万円の損害賠償や謝罪広告掲載を求めた訴訟の判決が10日、松山地裁であった。浜口浩裁判長は「記事の内容が原告の社会的評価を低下させることは明らか」などと男性警察官の主張を一部認め、同社に110万円の支払いを命じた。
 一方、女性に対する損害賠償と謝罪広告は「女性が提起した訴訟が著しく相当性を欠くものではなく、精神的損害は、賠償金の支払いで相当程度回復される」などとして棄却した。
コメント
購読者の興味を引くような記事を書けば、購買部数が増え利益も上がる。
  しかし、当該記事に根拠が無かったとされれば、その雑誌の信頼性、果てはその出版元に対する不信を読者等に持たせることになる。結果的に社全体の営業利益を大きく下がる結果にもなりかねない。
  軽率な記事が、当該記事による被害者はもちろん、時に記事の出版元に対しても大きな損害をもたらしうることを十分認識しておく必要があるだろう。
関連条文
【憲法】
第21条
 1項:「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
【刑法】
(名誉毀損)
第230条
 1項:「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」
(公共の利害に関する場合の特例) 
第230条ノ2
 1項:「前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」 ⇒※補足参照
※補足参照
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)
【民法】
(不法行為による損害賠償)
第709条:「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
(財産以外の損害の賠償)
第710条:「他人の・・・名誉を侵害した場合、・・・前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」
(名誉毀損における原状回復)
第723条:「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するに適当な処分を命ずることができる」
関連判例
【夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)】
「刑法230の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
【月刊ペン事件(最高裁第一小法廷判決 昭和56年4月16日)】
「刑法230条ノ2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。」
民事への刑法第230条の2の類推適用
人格権としての個人の名誉の保護と表現の自由(憲法21条)の調和を図った刑法230条ノ2の規定の趣旨は民事(名誉毀損)にもあてはまるので、刑法230条ノ2は民事にも類推適用される。
そして、民事の名誉毀損の裁判において、被告側は
①その行為が公共の利害に関する事実に係り
②もっぱら公益を図る目的に出たこと
③適時された事実が真実であることが証明されたこと ⇒※補足参照
を主張立証する必要がある。
※補足参照
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)
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 折原 康貴
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