職場でのコスプレ強要
2013/02/22 労務法務, 労働法全般, メーカー

事案の概要
販売目標に届かなかった罰としてコスプレを強要され精神的苦痛を受けたとして、カネボウ化粧品販売(東京)に勤務していた大分県内の60代女性が、同社や当時の上司らに計330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大分地裁(一藤哲志裁判官)は21日までに、同社と上司に計22万円の支払いを命じた(20日付)。
女性は、カネボウ化粧品の契約社員で、 子会社の「カネボウ化粧品販売」(東京)に出向し、美容部員として勤務していた 2009年10月、出向先の大分支社(大分市)が開いた研修会に参加。 販売ノルマ(2009年7月、8月分)が未達成だったことを理由に、上司からコスチュームが入った箱を他の部員3人とともに選ばされ、易者のコスチュームとウサギの耳の形をしたヘアバンドを 着用させられた。 また、許可なく写真を撮影され、11月の別の研修会でスライド上映された。
判決では、「コスチュームは業務内容や研修会の趣旨と全く関係なく、着用によって 精神的苦痛を感じたことが認められる」とした。 そして、「任意であっても拒否するのは非常に困難だった。正当な職務行為であるといえず、心理的負担を過度に負わせた」と指摘した。
原告代理人によると、原告の女性は「精神的苦痛に対する評価が低すぎる」として控訴する意向。
関連条文
民法709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
民法715条1項
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
同条2項:
「使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。」
同条3項
「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」
労働契約法5条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 」
民法415条
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」
コメント
上司の職務命令につきパワハラが問題となるケースを良く聞く。
ところで、そもそもパワハラとは何をさすのだろうか。
パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称である。
2012年1月30日,厚生労働省は職場における「パワーハラスメント」の定義を発表した。
それによれば、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる」とされる。
また、同省は報告書で,「パワーハラスメント」に当たる具体的な行為を6つの類型に分けて提示している。
以下がその類型である。
•暴行・傷害(身体的な攻撃)
•脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
•隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
•業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
•業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
•私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
ただ、パワハラ問題は個々の人間関係を背景とすることから、実際上その有無の判断が難しい場合がある。その場合には総合考慮で判断されることになるだろう。
例えば、①業務上の必要性、②業務命令をした上司の目的の違法性、③業務命令によって被る労働者の不利益の程度、等が考慮要素として考えられる。
パワハラは、その有無が争われる焦点になるので、被害者は加害行為を立証できる証拠を十分に準備しておくことが必要になってくるだろう。
今回の事案のように、パワハラによる精神的苦痛に対する慰謝料のみの請求は、それほど高額にならない場合が多い。ただ、パワハラによって退職せざるを得なくなった場合であれば、退職しなければ得られたであろう賃金相当額を請求できる可能性も出てくるだろう。
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