業界団体の内部規制を考える-Jリーグクラブを題材に-
2012/08/20 商事法務, 会社法, その他

概要
昨今、香川真司選手の入団で話題となった世界有数のサッカークラブであるマンチェスター・ユナイテッドはこの夏、株式をニューヨーク証券取引所に上場したことでも注目を集めた。サッカークラブもまた多くが株式会社の形式を取っており、それはJリーグのチームも同様である。しかし、Jリーグの各チームがこうした動きに倣って証券取引所の銘柄として名を連ねる可能性は、今のところあり得ない。それは、以下のような事情に基づく。
・Jリーグのクラブは発行済み株式の株主変更、新株発行の際に割当前にJリーグに書面にて届出を行わなければならない
・5%を超える株主の異動には事前にJリーグ理事会の承認が必要である
Jリーグ規約にはこうした条項が存在する。これらの規定により、Jクラブの株式の売買はその都度手続きをしなければならず、加えて株式市場における大量取得が事実上封じられていることになる。これらの規定が単純に「Jリーグクラブに上場企業が現れるはずがない」という認識を指し示すのか、それとも「Jリーグクラブが株式上場することはあってはならない」という理念に基づくものなのかは明らかではないが…。
また、かつて、ロアッソ熊本がJ2に参入する際のことである。当時、チームのメインスポンサーである高橋酒造により、ユニフォームの胸部には同社の主力商品である「白岳」の名が掲出されていたが、参入に当たり、Jリーグは「胸スポンサーに酒類の表示は出来ない」旨の勧告を行い、議論を呼んだ。これもまた「青少年向けのコンテンツであるJリーグのユニフォームに酒類の名が掲出されることは望ましくない」とするJリーグ側の自主規制によるものであるが、「日本代表の試合中継で酒類のCMが流れているのと何が違うのか」という疑問が呈されていた。
コメント
先にも述べた通り、これらの規定はあくまで「規約」であり「法」ではない。即ち、業界団体の内部規制ということになる。こうした規制は様々な業界で行われていることであり、どの手段を採るべきか…という問いにも正解はない。しかし、ことサッカーに関して言えば、ヨーロッパの多くのクラブが冒頭に述べたような上場により経営規模を拡大させたり、Jリーグでは許されていない外国資本の参入を活用したりしているのもまた事実である。
大事なことは、消極的な方針決定は決して許されない、ということである。長引く不況下にあって、各クラブの経営も苦しさを増している。その中で、よりオープンな方向に舵を切るのであればそのリスクを考慮した上で決断すべきであるし、現状を維持するのであれば、各クラブの経営安定策を積極的に提示していくことが求められる。
これらはあらゆる業界に共通して言えることである。
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