ゼロから始める企業法務(第13回)/法務から見た“知財攻略法”
2021/11/13   知財・ライセンス

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務から見た知財攻略法についてお話いたします。

 

知財の重要性


会社の製品や技術が持つ知的財産を特許や商標として出願することで権利化し、その管理や、場合によっては権利行使をすることは、とても重要です。せっかく素晴らしい製品や技術を開発し、または自社の商品やサービスに素敵なネーミングやロゴを付けたとしても、それが、他社が出願済みの特許や商標と類似していたことを知らずにリリースした場合は、特許権や商標権の侵害として差し止めや損害賠償を請求されるリスクが生じ、自社の評判も下がります。反対に、特許であれば、自社の新製品や新たな技術で特許性のあるものについてはリリース前に特許出願するフローを構築したり、将来の事業化を予定している分野の特許を調査し、競合他社が特許出願をしていない製品や技術があれば、先に出願をしておけば、自社の事業を守るだけでなく、競合他社の進出をけん制することにつながり、競争優位性を確保することができます。商標であれば、自社の商品、サービスのリリースする前に類似商標を調査のうえ出願し、権利化するフローを構築することで、他社の模倣を防ぎ、自社のブランドを育てることにつながります。この様に、知財業務は会社を守るだけでなく、積極的な事業展開をするためにも重要な業務となります。

 

法務とは似て非なる知財の世界


会社にとって重要な知財業務ですが、自社に知財の専任者がいる会社は少なく、法務が知財を兼任することがほとんどだと思います。一方、知財は法務と似て非なる分野です。試しに「J-PlatPat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)で、自社または競合他社の特許を検索してみましょう。ヒットした特許の請求項を読むと、この様な記載に面食らうと思います
 

●●サーバと、これと●●を介して●●された複数の●●と、を備える●●システムであって、前記サーバは、前記サーバから送信された●●を●●からされた前記●●に対する第1●●及び第2●●を●●し、前記●●は、前記第1●●及び前記第2●●と、前記第1●●及び前記第2●●のそれぞれが●●時点に●●する、前記●●を基準とした●●の●●を表す●●である●●と、を含み、前記●●及び前記●●に基づいて、前記●●と、前記●●に対応する●●において、前記●●と●●して、●●に●●する前記第1●●及び前記第2●●と、を●●の●●に●●させる手段と、前記第2●●を前記1の●●上に●●させる際の●●が、前記第1●●の●●と●●か否かを●●する●●と、●●と●●された場合に、前記第1●●と前記第2●●とが●●に●●されるよう●●する●●と、を備える●●システムにおいて、前記サーバが、前記●●と、前記●●とを前記●●に●●することにより、前記●●の●●には、前記●●と、前記●●に対応する●●において、前記●●と●●して、●●する前記第1●●及び前記第2●●と、が前記第1●●と前記第2●●とが●●に●●される、●●システム。


 

●が多くて恐縮ですが、およそ日本語として読むのが難しい文章だということは伝わったかと思います。

商標についても、検索すると指定商品/指定役務が羅列されているほか、類似群コードという数字とアルファベットの組み合わせによるコードも記載されており、一見して何を意味しているのかが分かりません。この様に、知財は非常に高い専門性を求められる業務で、条文や書籍を調べる程度の対応では、太刀打ちできないことがお分かりになるかと思います。

 

特許掘り起し会議のススメ


知財のなかでも特に特許については、多くの法務パーソンが対応に苦慮する分野だと思います。経営陣からは法務に対して、知財戦略として特許の出願件数を増やすよう指示が下りてくる。一方で社内に知財の専任者はおらず、自分は特許の請求項を読むことすらおぼつかない。社内では複数の開発案件が走っているが、その中のどれに特許性があるかも分からない・・・この様な状況ではないでしょうか(私がそうです 笑)。私としては、外部の弁理士を招いて、定期的に「特許掘り起し会議」を開催することをお勧めします。社内にリソースが無ければ、外部の専門家を活用すればいいのです。概要は、以下のとおりです。

 

(1) まずは、開発部門の責任者や、アイデアマン等のキーパーソンをピックアップし、特許掘り起し会議への参加をお願いします。


(2) 次に、当該キーパーソンに、担当の開発案件に関する「開発アイデアメモ」への記入をお願いします。項目は、開発アイデアの概要として《狙い・目的》《開発のポイント・特徴・効果》《従来製品との比較》それから開発者の技術的判断として《技術的価値》《実施の可能性》《開発の完成度》《出願の必要性》それぞれの濃淡になります。


(3) 会議では、各キーパーソンから、事前に記入をお願いした「開発アイデアメモ」を基に、担当の開発案件について説明をしてもらい、その中から特許性のあるアイデアを弁理士に判定してもらう様にします。


 

実は、特許性の要件は「新しい構成を有すること」と「新たな効果を奏すること」のたった2つなので、私の経験では、この方法で複数件の新規出願を果たせた他、開発部門では今まで抜本的な新しい技術でないと特許は取れないと考えていたところ、自社内の既存技術に対する僅かな改良でも特許になる可能性があることを知り、特許に対する意識を変えることにもつながりました。また、法務パーソンが、社内にどの様な開発案件が走っているかを把握することもでき、一石二鳥です。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。

 

 

==========

本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ上場ITベンチャー、東証一部上場インターネット広告会社、スマホゲーム開発会社、Mobilityベンチャーでの法務、経営企画等に従事後、現在はライブ動画配信プラットフォーム提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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