ゼロから始める企業法務(第11回)/法務相談
2021/11/11 法務相談一般

皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務相談についてお話いたします。
法務相談と言っても実際の相談内容は様々
法務は日常的に事業部、管理部門、経営陣等、様々な立場のビジネスパーソンから多くの相談を受けます。その内容も、契約や法令に関する相談だけでは無く、取引先とのトラブルや役職員間のハラスメント、労務問題、社内規程や社内決裁フロー、個人情報の取扱い、書面に押すハンコの種類や書類作成日付、文書の管理方法や保存期間、挨拶状や詫び状等の顧客や取引先への書面の書き方、「及び」「並びに」等の言葉遣い、会社案内やコーポレートサイトの記載内容(例:取締役と執行役員の欄を「役員」でまとめて良いか)や配置(例:利用規約等の法的情報はサービスサイトのどのレイヤに表示すべきか)等、相談される内容も実に様々です。中には一見して法務マターではない相談もありますが、法務も会社組織の一員である以上、その様な相談に対しても丁寧に対応し、一定のアウトプットを提供した方が、円滑な人間関係を築くことにもつながり、良いかと思います。
法務相談における法務の役割とは
法務相談における法務の役割の大部分は、「法令、ガイドライン、判例や他社事例等を調査し(難しい案件の場合は、弁護士等の専門家の指導・助言を得たうえで)、相談を受けた事項に法的リスクが無いか報告(リスクがある場合は、その度合いを報告したり、解決策を提案)すること」に尽きます。
回答の仕方についても、「●●と思います。」等の主観的な意見ではなく、「結論は、●●です。理由は、●●法第●条に●●との記載があるからです。」等の、法令や事例等の事実に基づく客観的な報告が求められます。また、時々ビジネスサイドから「法務の判断」を求められるときがありますが、原則として、法的リスクを理解し、検討したうえで、案件を進めるかどうかを判断できるのは、ビジネスオーナーである事業部であり、法務は判断できる立場で無いことは、しっかり伝えるべきだと思います。
ただし、多くの経験を積んだ分野であったり、社内に過去事例等のナレッジが蓄積されている分野に関する相談であれば、より踏み込んだ回答も可能です。ですので、法務相談に対する回答の精度や質を上げていくためには、社内にナレッジを蓄積させるための仕組み作りが大切になります。
法務相談への対応手順
法務相談を受けた際は、まずは相談者から「実現したいこと」を確認します。これが明確でないと、法務相談を受けた事項に関する法令調査のみとなってしまい、相談者に対して何ら解決策を提案できなくなる場合があるからです。
次に「実現したいこと」を実現すべく、調査に取り掛かるのですが、この手順は、皆様が法律の勉強をした際の方法(基本書を読んで、条文を引き、判例や先例を調べる)に似ています。相談を受けた事項に関する法律専門書等の文献(ちなみに、法務にとって法律専門書は、メカニックにとっての工具と同様、「商売道具」です。積極的に買い揃えましょう。)を読み、概要を理解したうえで、条文で法的な要件を確認し、管轄の省庁が公開している事例やガイドライン、Q&A等で相談事項と実際の事例を照らし合わせ、法的リスクの有無や問題点について検討していきます。その結果、法的リスクや問題が無かった場合でも、相談者には、その理由と、法的リスクや問題が生じてしまう場合についても解説しておくと、その後、相談者がビジネススキームを微修正する際にも法的リスクの有無を判断できるので、良いかと思います。
検討の結果、法的リスクや問題があった場合や、そもそも照らし合わせる事例が無い様な、全く新しい取り組みであった場合は、弁護士やその他の専門家(会社法であれば司法書士、知財であれば弁理士、労務問題であれば社労士、会計・税務であれば会計士や税理士、金商法であれば証券代行や印刷会社の法務研究部等)に相談するのですが、その際にも、ただ漠然と相談するのではなく、①相談者から確認済みの「実現したいこと」と②今まで自分が調査した文献、条文、事例等③自分が調査した結果を伝えると共に、④(あれば)自分なりに立てた仮説に基づく解決案についても伝えると、専門家が一から調査、検討する工数を削減できると共に、こちらが全く意図して無い方向性の意見が提出されることを防ぐことができます。
相談の結果、専門家から「実現したいこと」とは馴染まない意見が提出された場合は、他のビジネススキームを検討したり、他の専門家からセカンド・オピニオンを取る等の、次善策を検討し、実施します。この様な調査→検討→相談→検討のサイクルを繰り返すことで、相談者が「実現したいこと」に可能な限り沿った解決策を提案し、または法的リスクの度合い等、相談者やその上司がビジネスジャッジをするために必要な情報の提供が可能になります。
最終的には、法務からのアウトプットを基に、ビジネスが適法・適切な方向でドライブする様、事業部と一緒に脳ミソに汗をかくのが法務の役目となります。なお、専門家から得た指導・助言のメールについてはPDFやテキストファイルにしたうえで、法務の共有フォルダに保存し、ファイル名のルール化やカテゴライズをすることで検索が容易な状態にして置くと良いと思います。こうすることで、次回に同様の相談があった際に過去のベスト・プラクティスを引用することができ、法務相談に対する回答の精度や質の向上と、プロフェッショナル・フィーの抑制に寄与することができます。
その他
前述のとおり、法務には一見して法務マターではない相談も寄せられますが、その中でも多いものに、顧客や取引先等の社外に提出する書面に関する相談や、書面そのものの作成があります。
私がその様な相談を受けた際は、上場企業のIR文書を参考に、書面の作成、修正にあたる様にしております。IR文書は、上場企業にとって最大のステークホルダである株主に対する書面なので、対外的な文書を作成する際の記載方法や言葉遣い等について、とても参考になります。東証の適時開示情報閲覧サービス「TDNet」(https://www.release.tdnet.info/)から容易に収集できるので、ぜひご参考にしていただければと思います。
いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、法務ワークフローの構築方法について、記事にできればと思います。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】
私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
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