ゼロから始める企業法務(第8回)/取締役会対応で頭を悩ませる事項とその対応方法
2021/11/08   商事法務

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は取締役会担当者が実務で対応に悩む事項とその対応方法についてお話いたします。

 

取締役会あるある


取締役会事務局の実務を行うなかで、担当者は様々な質問や要望を受け、また、自らも疑問を抱き、対応に悩むことがあります。その様な「取締役会あるある」について、私の経験から、対応策を幾つか紹介いたします。

 

●議案の「議題」


最も基本的なことでありながら、地味に悩むのが、議案の「議題」です。例えば、他社に出資をする議案の議題を考えると、「××株式会社への出資の件」「××株式会社の増資引受の件」「××株式会社の新株式引受の件」と、幾つか案が浮かびますが、実態に照らせばどれも正しいので、どれを採用するのが適切か、却って分からなくなります。また、一定の指針が無いと、A社への出資の際の議題は「××株式会社への出資の件」、少し期間が空いてB社に出資する際の議題は、A社の時の議題を忘れて「××株式会社の増資引受の件」となったりし、見栄えも悪くなります。この様な場合、私は、上場会社のIR文書を検索します。他社に出資をする際のIR文書を検索すると、おおよそ「××株式会社の第三者割当増資引受に関するお知らせ」と記載されています。これを取締役会の議題に転用し、「××株式会社の第三者(又は株主)割当増資引受の件」と記載すれば良いのです。こうすることで、議題の記載の振れを防ぐことができ、また、役員から「この議題にした理由は?」と質問を受けた際にも、回答に困らないので良いかと思います。

 

●取締役会議案資料


議案資料の作成担当者から良く受けるのが、「資料はどう作成すれば良いか」「何を記載すれば良いか」という質問です。また、例えば新規事業の承認議案では、担当者がパワーポイントで何十ページにも及ぶ資料を提出してくることがあります。取締役会という限られた時間の中で議案を審議し、決議をするためには、資料はシンプルかつ必要な事項が網羅されている必要があります。この様な場合、私は担当者に、サマリーを作成してもらう様、お願いします。項目としては、「議案を上程する背景・目的」「議案の概要」「それによる効果(売上の増加、コスト削減等、会社の利益につながる事項)」「費用」「今後のスケジュール」等の事項を、A4一枚程度にまとめ、詳細は別紙にしてもらいます。取締役会の場でも、担当取締役からの説明は最初のサマリーのみとし、「詳細は別紙をご参照ください」で締めてもらいます。こうすることで、議案を審議する時間を削減し、会議が不必要に長引くのを防ぐことができます。そのためにも、議案資料を取締役会の前日までに送付することに意味があるのです。また、議案資料の提出を受けた際は、この資料が事前に担当役員の承認を得たものか、確認する様にします。もし、事前に担当役員の承認を得ていないものであった場合は、取締役会当日までに担当役員の承認をもらう様、お願いをします。また、決裁権限表上、経営会議、常務会等の下部会議体での承認も必要な議案であった場合には、議案資料が当該会議体で検討のうえ、提出されたものかを確認する様にします。こうすることで、唐突に、事前に社内役員間で検討がされてなかった資料が取締役会に提出されることを防ぐことができます。

 

●取締役会出席者


原則として取締役会に出席できるのは、取締役、監査役のみですが、取締役会運営実務においては、従業員が議案資料の説明をする場合があります。取締役会で取り扱う議案と資料は、機密性の高いものなので、従業員が議案を説明する場合は、その議案のみ、説明する従業員に同席してもらうと良いと思います。具体的には、取締役会を開催する会議室の近くの会議室を控室として押さえ、議案を説明する従業員の方に待機してもらいます。従業員からの説明が必要な議案の番になったら、当該従業員の方にお声がけし、会議室に入っていただきます。又は、従業員からの説明が必要な議案を一番先に審議する様に、議案の順番を組み立てる方法で対応するのも良いかと思います。また、財務経理部長や従業員執行役員等、取締役会に継続的に同席する従業員がいる場合は、株主総会後の取締役会等で、年に一回「取締役会に継続的に出席を求める報告者の決定の件」等の議案を上程し、取締役会の承認を取ると良いかと思います。

 

●オブザーバー


ファンドや事業会社の資本が入っている会社では、投資契約書や株主間契約書の規定に基づき、当該ファンドや事業会社の経営企画部長等がオブザーバーとして陪席する場合があります。オブザーバーの方からは、会社の経営に関する有用な助言等を得ることができ、また、大株主との信頼関係を構築、維持するためにも、陪席は歓迎すべきですが、前述のとおり、取締役会で取り扱う議案と資料は、機密性の高いものなので、オブザーバーの方からは、取締役会で取り扱う情報に関する秘密保持誓約書をいただくと良いと思います。また、上場会社の取締役会において、大株主からオブザーバーを派遣したいとの要望を受けた際は、「上場会社の独立性」の観点から、慎重に検討した方がいいです。顧問弁護士と相談のうえ、お断りをする場合もあるかと思います。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、取締役会議事録作成業務で担当者が対応に悩む事項とその対応方法について、記事にできればと思います。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ 上場 IT ベンチャーでの法務マネジャー、東証一部上場インターネット広告会社での法務マネジャー・経営企画、スマホゲーム開発会社での法務マネジャーに従事した後、現在は MaaS サービス提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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