Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎 第32回 -  契約期間条項
2021/10/28   契約法務, 海外法務

 


今回は契約期間条項について解説します。

【目  次】


(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)


Q1: 契約期間の意味・意義は?


Q2: 一般的な契約期間条項は?


Q3: 契約更新を合意により行う場合の条項例は?


Q4: 前契約期間中の実績により更新する場合の条項例は?


Q5: 英文契約でも契約期間の定めのない契約はありますか?


 

Q1: 契約期間の意味・意義は?


A1: 契約期間とはその契約が有効である期間、言い換えれば、原則としてその契約上の当事者の権利および義務が存続する期間を意味します。これは当然と言えば当然のことですが、このことから、契約期間条項には以下のような意義・効果があると言えます。

【契約期間条項の意義・効果】


①契約期間満了後は原則としてその契約上定められた当事者の権利義務は消滅します。従って、例えば、販売店契約では契約期間満了後、売主は商品の供給義務を負いません。特許ライセンス契約ではライセンシーは以後その特許(発明)を使用できません。(但し秘密保持条項等、契約上の明示的規定によりまたはその性質上当然に契約期間満了後も存続する権利義務は別)

②特約店契約のような当事者間の継続的関係を定める契約(以下「継続的契約」という)では仮に契約期間条項を置かない場合は、例えば売主側が契約の終了を望んだとしても、そもそもその契約を一方的に終了させることが可能か、仮に可能としてもその条件はどうなるか(例:予告期間、相手方の投資に対する補償の要否)等が問題となります。これは、適用される各国の法律、契約の種類、個別の事情等により異なる可能性があります。しかし、契約期間条項を置けば、(完全にではないとしても)予め契約の終了をコントロールすることができます

一方、継続的契約が自身のビジネスの前提である当事者(例:販売店契約の販売店側)にとっては、その契約期間(および更新期間)中は原則としてそのビジネスの継続が可能であるという意味で、契約期間条項が重要と言えます。

④これに対し、一回限りの売買のように、両当事者の義務の履行(売買目的物の引渡しと支払い)が完了してしまえば(Warranty責任等は別として)両当事者の関係が消滅する契約では契約期間条項を置く必要がありません。

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Q2: 一般的な契約期間条項は?


A2: 以下に自動更新条項付きの条項例を示します。

ARTICLE 10. TERM OF AGREEMENT 第10条 契約期間


This Agreement shall come into force on the Effective Date, and, unless sooner terminated, shall continue in full force and effect for     years from the Effective Date.


本契約は、「発効日」から有効となり、かつ、より早期に解除されない限り、「発効日」から 年間有効に存続するものとする。


Thereafter, this Agreement shall be renewed automatically for successive periods of      years each, unless terminated by either Party giving written notice of non-renewal at least     months prior to the last day of the then current term to the other Party.


以後、本契約は、いずれかの当事者から相手方当事者に対しその時点での契約期間の最終日から ヶ月前迄に書面による不更新通知により終了させられない限り、更にその後の 年間ずつ自動的に更新されるものとする。


①契約期間の開始日(「発効日」): ここでは、契約の頭書(本Q&A第2回Q3参照)または定義条項で「発効日」が特定・定義されているという前提です。勿論、この契約期間条項中に”June 1, 2020”等と記載しても構いません。

②最初の契約期間:"    years"の”s”は1年の場合削除(更新期間・予告期間も同様)。1年が多いと思います。例えば、販売店契約等の売主で、相手方が初めての特約店なので最初は様子を見るため複数年にはしないという考え方もあるでしょう。一方、販売店側としては、特に一定規模以上の投資をする場合、最低限その初期投資を回収できる期間として複数年を希望するでしょう。売主側としても、短すぎれば特約店側の投資・販売インセンティブを失わせかねないのでデメリットとなります。

③自動更新条項: 自動更新条項のメリットは何もしなければ契約が更新されるので契約更新のための手続が不要なことです。そのデメリットは、事前予告期間を過ぎれば自動的に契約が更新されるので、うっかり不更新通知(予告)を忘れてしまった場合には、嫌でも次の更新期間中は原則として相手方との取引を継続せざるを得ないことです。

④不更新通知の予告期間: 1か月、3か月、6か月、1年(複数年契約の場合)等が多いと思います。例えば、販売店契約の売主側、ライセンス契約のライセンサー側は短い方がいいでしょうが、その相手方としては自身のビジネス計画に重大な影響があるので長い方がいいということになります。その他の考慮要素としては、(i)管轄裁判所から予告期間が短すぎるとして通知の有効性が否定されないか、(ii)相手方との間の事実上の紛争を回避するために十分な予告期間か、(iii)その予告期間に入る前までに特約店契約を更新すべきか否かを売主が判断するのに十分な特約店の購入実績等のデータが入手できているか等が考えられます。

更新期間の長さ: これについても、最初の契約期間と同様のことが当てはまりますが、特に更新を重ねるにつれ販売店が投資する施設等の増加・拡大が予想される場合には、仮に更新されない場合はそれら施設が無駄になる可能性があるので更新期間も予告期間も長期を望むでしょう。

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Q3: 契約更新を合意により行う場合の条項例は?


A3: 以下に条項例を示します。
 

This Agreement shall come into force on the Effective Date, and, unless sooner terminated, shall continue in full force and effect for     years from the Effective Date (the “Initial Term”).


本契約は、「発効日」から有効となり、かつ、より早期に解除されない限り、「発効日」から  年間(「当初契約期間」)有効に存続するものとする。


This Agreement may be renewed for successive      year terms (each, a “Renewal Term) by mutual written agreement of the Parties executed not less than      months prior to the expiration of the Initial Term or any Renewal Term, as applicable.


本契約は、以後 年間ずつ(以下それぞれ「更新期間」という)、両当事者が「当初契約期間」または各「更新期間」の満了日の ヶ月前までに署名した相互の合意書面により更新することができる。


 

Q4: 前契約期間中の実績により更新する場合の条項例は?

A4: 以下にライセンス契約の場合の条項例を示します。

 

This Agreement shall come into force on the Effective Date, and, unless sooner terminated, shall continue in full force and effect for      years from the Effective Date.


本契約は、「発効日」から有効となり、かつ、より早期に解除されない限り、「発効日」から 年間有効に存続するものとする。


If during the said      year period Licensee has sold Licensed Products of at least      United States Dollars in Net Sales Price, then Licensee may extend this Agreement for successive periods of      years each.


この 年間にライセンシーが「純販売価格」で    米国ドル以上の「許諾製品」を販売した場合には、ライセンシーは本契約を更に 年間ずつ更新することができる。


Licensee shall inform Licensor in writing of the estimated amount of the total sales of Licensed Products during said       year term and its intention of extension, if any, at least      months prior to the expiry of this Agreement or any extension thereof.


ライセンシーは、本契約期間またはその更新期間の満了日から   ヶ月前までに書面で当該   年間の「許諾製品」予想販売額および契約期間更新の意思(もしあれば)をライセンサーに知らせるものとする。


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Q5: 英文契約でも契約期間の定めのない契約はありますか?


A5:  あります。以下にAWS Customer Agreement(Amazonのクラウドサービス契約)(最終更新日:2020年6月30日)の条項例を示します(訳・太字は筆者)。
 

7. Term; Termination. 契約期間;解除


7.1 Term. 契約期間


The term of this Agreement will commence on the Effective Date and will remain in effect until terminated under this Section 7.


本契約の契約期間は「発効日」に開始し本第7条に基づき解除されるまで有効とします。


Any notice of termination of this Agreement by either party to the other must include a Termination Date that complies with the notice periods in Section 7.2.


いずれかの当事者から相手方当事者に対する本契約の解除通知には、7.2に定め事前通知(予告)期間に従った「解除日」を記載しなければならないものとします。


7.2 Termination. 解除


(a) Termination for Convenience. 任意解除


You may terminate this Agreement for any reason by providing us notice and closing your account for all Services for which we provide an account closing mechanism.


お客様(AWSユーザ)は、理由の如何を問わず、当社(AWS)に通知をし、かつ、当社がアカウント終了の仕組みを設定している全ての「サービス」のアカウントを終了することにより本契約を解除することができます。


We may terminate this Agreement for any reason by providing you at least 30 days’ advance notice.


当社[AWS社]は、理由の如何を問わず、30日前までにお客様に通知することにより、本契約を解除することができるものとします。


(b) Termination for Cause. (契違反等を理由とする解除) (省略)


“Term”(「契約期間」)との表現はされているものの、継続的契約で確定した契約期間がなく解除(解約)条項しかないという点で実質的には(契約)期間の定めがない契約と言えると思います。

このような期間の定めのない継続的契約の一方的解除の有効性は、適用される各国の法律、契約の種類、解除される側の保護の必要性、個別の事情(予告期間の十分性、他社サービスへの乗り換えの容易性)等によって異なる可能性があります。

 

今回はここまです。次回は解除条項について解説します。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ一覧


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【免責条項】


本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)


 
 

【筆者プロフィール】


浅井 敏雄 (あさい としお)


企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】


https://www.theunilaw2.com/


 

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