食品への異物混入に関する法律まとめ
2017/10/11 コンプライアンス, 民法・商法, 製造物責任法

1.はじめに
神奈川県大磯町が昨年1月から業者が弁当を届けるデリバリー方式の学校給食を町立中学校2校で導入したところ、毛髪などの異物混入が計84件と相次いで発生したため、町議会は、給食の製造業者との契約を解除する方針を決めました。この件以外にも、カップ焼きそばにゴキブリ、フライドポテトにヒトの歯らしきものが混入していたなど、食品への異物混入問題は後を絶ちません。実際に、平成27年度の東京都福祉保健局の統計によれば、異物混入に対する苦情処理件数は全体の20.3%にも及び、平成23年度よりも約500件も増加しています。そこで、今回は、食品への異物混入に関する法律についてまとめました。
2.関係法令の概観
食品を製造・販売した場合の流通は、様々ではあるものの、一般的には、製造業者→卸業者→小売業者→消費者、といった流通過程になります。消費者が購入した食品から異物が発見された場合、各業者間で様々な法的問題が生じますが、今回は製造業者を取り巻く主要な法律関係について見ていきたいと思います。
3.製造業者と行政(保健所)
製造業者と行政との関係では、食品衛生法第6条が問題となります。この点、食品衛生法上の「異物」とは、「食品又は添加物以外の物質で、人の健康を損なうおそれのあるもの」と解釈されており、そういったものに限って販売等が禁止されています。また、「人の健康を損なうおそれのある」か否かは、客観的に判断されることになりますが、「おそれのある」かどうかの判断が難しい場合も少なくなく、実務上は、どの程度の健康被害の発生リスクまで含まれるのか法的解釈が問題となります。そして、同条の違反行為に対しては、①廃棄命令、②危害除去のための必要な処置(回収命令・改善命令など)、③営業禁停止、④許可取消、⑤改善命令、及び⑥営業禁停止(許可営業者について)が行政処分として実施される場合があります(同法第54条、55条、56条)。
以下、食品衛生法第6条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。
e-Gov法令検索「食品衛生法」
会社の製品に異物が混入してしまった場合,どんな罪に問われるの?(小林裕彦法律事務所コラム)
4.製造業者と卸業者
製造業者と直接の売買契約を締結する卸業者との関係では、売買契約における債務不履行責任に基づく損害賠償(民法第415条)及び契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠償などが問題となります。この点、製造業者が、故意又は過失により、卸業者に異物が混入した食品を供給することは、一般的には「債務の本旨に従った履行をしないとき」(同条)に該当すると思われ、債務不履行となることから、卸業者としては、製造業者に対し、瑕疵のない食品の供給のほかに損害賠償等の請求ができることになります(同条)。また、卸業者と製造業者との間の契約では瑕疵担保条項を定めることが通例であり、卸売業者は、製造業者に対し、異物が混入した食品には「瑕疵」があるとして瑕疵担保責任に基づき、損害賠償等の請求もなしえます。
以下、民法第415条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。
e-Gov法令検索「民法」
瑕疵担保責任②(債務不履行責任、製造物責任との比較)(弁護士 日髙正人のブログ)
5.製造業者と消費者
製造業者と消費者との関係では、製造物責任法(以下「PL法」という)第3条が問題となり、同条の「欠陥」については同法第2条に規定されています。製造物の欠陥には、①設計上の欠陥、②製造上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3種類に分けられます。特に食品では、②製造上の欠陥が問題となることが多く、例えば、製造過程において、食品に鋭利な金属片が混入してしまい、これを食べた消費者が口内に怪我をした場合には、この製造上の欠陥があるとして賠償責任が生じうることになります。製造機器の摩耗・経年劣化により金属片が混入する事故は、異物混入事故の中でもかなり多い類型となっています。また、今後、食品では、③指示・警告上の欠陥も問題とされる場合が増えることが予想されます。例えば、製造業者が安全確保上どうしても必要な事項を表示・警告書に書き漏らした場合、これは③指示・警告上の欠陥に該当することとなり、賠償責任を負う可能性があることには注意が必要です。
以下、PL法第3条と同条違反の事例については、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。
e-Gov法令検索「製造物責任法」
ジュースの中の異物による負傷と製造物責任(独立行政法人国民生活センターHP)
6.おわりに
人の手を介して製造している以上、食品への異物混入の危険性は常にあります。一方で、世の中の食品への安全・安心の要請は高まっております。特に、給食など子どもの食べる食品へのそれは顕著なものとなっております。食品への異物混入を防ぐためには、製造現場におけるマネジメントシステムを作る必要があります。また、実際に異物混入が起きてしまった場合、再発防止のため、製造現場の従業員とコミュニケーションを取り、原因究明、マネジメントシステムの改善などにつなげていくことも必要となってきます。健康について人々の関心が高まっている昨今の状況をみても、マネジメントシステムの構築は、企業側にとっても消費者側にとっても早急に求められていることのように思います。
「(PDFファイル)食品事業者の法務(1)~異物混入と法的責任~(松田綜合法律事務所)」
「食品製造現場における総合的な異物混入対策の考え方と進め方」(イカリ消毒株式会社)
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