株主総会の招集手続違反まとめ
2016/12/21   総会対応, 商事法務, 会社法, その他

はじめに

12月14日に三菱自動車の臨時株主総会が開かれました。
そこで今回は、株主総会手続きの招集方法などに違反があった場合についてみてみます。

基準日

基準日とは議決権の行使または配当を受けるべき者等株主としての権利を行使すべき者を定めるための一定の日のことです(会社法124条1項)。基準日に株主名簿に記載されている株主が株主としての権利行使が可能となります。基準日を定める場合には、株式会社は、株主が行使することができる権利(基準日から3か月以内に行使するものに限る)の内容を定めなければなりません。多くの会社では、事業年度の終了日を株主権行使の基準日としていることから、事業年度終了後3か月以内に開催しなければならないこととなります。株主総会の開催手続きは?(出典 エヌ・ジェイ出版販売株式会社)
仮に基準日から3か月を経過して株主総会が開催される場合には、改めて議決権行使の基準日を定めるために、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。定時株主総会の開催時期について(出典 法務省)

株主総会の召集方法・招集権者・招集通知

定時・臨時いずれの株主総会も、定められた招集手続によって開催されます。
招集権者は、取締役会設置会社においては、取締役会です。
それに対し、取締役会を置かない会社においては、取締役が招集を決定します。
株主総会招集の際に決定する事項は、(1)開催の日時・場所、(2)目的である事項、(3)書面による議決権行使ができるときは、その旨、(4)電子メールなどの電磁的方法による議決権行使ができるときは、その旨、(5)その他法務省令で定める事項です。
株主総会の召集方法・招集権者・招集通知 (出典 株式会社の作り方)

招集通知の発送

公開会社においては招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発しなければなりません。
非公開会社である場合、取締役会設置会社は、株主総会の1週間前までです(ただし、書面投票制度又は電子投票制度を採用した場合は2週間前です)。
取締役会非設置会社では原則、株主総会の日の1週間前までです(定款において総会の1週間前よりも短い期間を定めることもできます)。
株主総会の招集手続について、公開会社かどうかによる違い、取締役会設置会社かどうかによる違い、株主数による違いについて(出典 弁護士法人 淀屋橋・山上合同)

招集通知の内容

株式会社は、事業年度ごとに、計算書類・事業報告とその附属明細書を作成します。計算書類とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、及び、個別注記表を指します。これらの計算書類・事業報告等は、会社によって作成され、監査を受けた後に、取締役会の承認が受けた上で(会社法436条3項)、定時株主総会に提出されます。決議事項 ~計算書類等の提出及び業績開示の承認1(出典 Legalus)

招集通知漏れ、招集通知期間の不足、招集手続きの違反がある場合

招集通知漏れ、招集通知期間の不足、招集手続きの違反、があるなど、
招集手続の法令違反として株主総会決議取り消しの訴えの対象になることがあります(招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なとき (831 条 1 項 1 号))。もっとも、株主総会の招集手続きまたは決議の方法が法令、定款に違反する場合でも、違反が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない場合であれば、取消事由がある場合でも、裁判所の判断で、訴えを棄却(退けること)することができます。裁判所による裁量棄却と呼ばれます(832条2項)。
取消事由となる事例として以下のようなものがあります。
招集通知漏れ
招集通知が発せられなかった場合や、記載に誤りがあった場合には、総会招集手続きに瑕疵があったものとして総会決議取消事由に該当するとされています(会631条)。
なお、招集通知の発送漏れが多数に及ぶ場合は、決議の手続きに重大な違法があり、そのために決議があったとは評価できない場合にあたります。
具体的には、招集通知を欠いた株式の数が、全体の4割近くに上る場合、株主総会決議の不存在事由になるとした最高裁判例があります(最判昭和33年10月3日)。(出典 判例INDEX)
招集通知期間の不足の例
招集の通知が、すべての株主に対して法定の招集期間に2日足りない会日より12日前になされたものであるとき 最判昭和46年3月18日(出典 判例INDEX)
招集手続の違反
福島県南会津郡を所在地とする株式会社が、定款に別段の定めがないにもかかわらず、その株主総会を東京都新宿区に招集した手続 最判平成5年9月9日(出典 判例INDEX)
議案の要領の不足の例
議案の要領の記載が必要な事項が挙げられています(会社法施行規則63条7項)のでこれに違反した場合などです。
営業の重要な一部を譲渡する旨の決議がされた株主総会の招集通知に右営業の譲渡の要領を記載しなかった違法がある場合 最判平成7年3月9日(出典 判例INDEX)
目的事項に「取締役解任の議題につきその氏名が特定されていない通知がされた場合。取締役の解任(出典 鳥飼総合法律事務所)
目的事項に「取締役選任の件」とのみ記載し、選任される取締役の員数を明らかにしない通知がされた場合。最判平成10年11月26日(株主総会決議取消請求事件)判旨(出典 自分でできる会社設立)  
取締役会設置会社における取締役会の招集に関する決定(298 条 4 項)を欠く招集
取締役会の決議を経ることなく、代表取締役が株主総会を招集した場合には、招集手続に違反があるとして、決議取消事由になります。最判昭和46年3月18日(出典 裁判所)
取締役会の決議を経ることなく、代表取締役以外の取締役によつて株主総会が招集された場合は、決議の手続きに重大な違法があるとして決議不存在事由となっています。最判昭和45年8月20日(出典 裁判所)

株主総会議事録作成

株主総会での議事の経過や結果を明瞭に記録する役割を担っており、法令も、この作成義務を認めています。
株主総会議事録の記載事項(出典 Legalus)
株主総会議事録 サンプル(出典 税理士中江博行事務所 )

最後に

招集通知漏れ、招集通知期間の不足、招集手続き違反、議案の要領の不足、取締役会決議のない招集は、適正に招集通知を得た株主からも株主総会決議の取消の訴えを提起される可能性があります。従って、事務処理上のミスも含め、招集に際してはチェック体制を整えておくべきといえるでしょう。

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