【法務NAVIまとめ】残業代未払い問題に対する対応
2016/08/04   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

昨今残業代の未払いがニュースで取り上げられ、訴訟も多く提起されるなど、広く問題になっています。経営難から人件費を削減する必要性に迫られることも多いですが、発覚すると刑事責任も追及されかねません。また、事業所内での慣例により、問題意識を持たずに残業代の未払いが生じているケースもあります。
今回は、残業代の未払いが問題となった場合の企業側の対応や、正しく労働時間を算定するための注意点などについてまとめました。

残業代の未払いは深刻な問題になります

残業代(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の支払を怠ったことが発覚すると、まずは労働基準監督署から「是正勧告」がなされます。
「是正勧告」に従い是正をしなかった場合、書類送検となり、罰せられる可能性があります。その場合の刑罰は、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」(労働基準法109条1号)です。
また、民事で未払賃金請求をされた場合、付加金として、未払金と同額の金銭を追加で支払うことを裁判所から命じられることもあります(労働基準法104条本文)。

参照:
弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所
 中小企業のための法律相談―残業代の未払い問題

咲くやこの花法律事務所
 なぜ今、未払い残業代請求ブームが巻き起こっているのか

こんな風に残業代をカットしていませんか?

ケース1.「うちの会社は、残業代は出ないから」と残業代をカットしている
ケース2.定時にタイムカードに打刻させ、残業代をカットしている
ケース3.会社で残業させず、仕事を自宅に持ち帰らせ、残業代をカットしている
ケース4.1ヵ月の残業時間上限を勝手に決め、残業代をカットしている
ケース5.「年俸制だから」と残業代をカットしている
ケース6.名ばかりの管理職に仕立て上げ、残業代をカットしている
ケース7.残業時間を切り捨て、残業代をカットしている
ケース8.「フレックスタイム制だから」と残業代をカットしている
ケース9.「みなし労働時間制だから」と残業代をカットしている

参照:
全国残業代請求サポート協会 残業代バンク
よくある悪質な残業代未払い事例

未払いにしないための予防策

1.労働時間に該当する時間を正しく把握しましょう

■労働時間(残業時間)に該当する時間
(1) 昼休み中の来客当番や電話番
 昼休み中であっても、来客や着信があった場合は対応しなければならない場合。
(2) 黙示の指示による労働時間
 残業をしていることを使用者(社長や上司)が知っているにもかかわらず、見て見ぬ振りをしている場合。あるいは、使用者から「(残業は認めていないから)早く帰りなさい」などの指示を受けたことがない場合。
(3) 所定労働時間外の教育訓練
 ただし、強制ではなく自由参加のものであれば、労働時間には該当しない可能性が高いです。
(4) 着替え時間
 着用を義務付けられた制服や作業服などに着替える場合。
(5) 仮眠時間
 使用者の指揮命令下から離脱している、つまり、労働者が労働から解放されていることを保障されている状態であれば、労働時間には該当しません。
 しかし、警報や電話、来客に対する対応が義務づけられているなどの場合には、労働時間に該当する可能性が極めて高いです。

■労働時間に該当しない時間
(1) 通勤時間
(2) 出張先への往復時間
  ただし、物品の運搬自体を目的とする業務の移動時間は労働時間に該当します。

参照:全国残業代請求サポート協会 残業代バンク
労働時間(残業時間)の定義を知っておこう

2.労働時間の算定、管理をしっかりと行いましょう
労働時間管理は使用者側の責任で行うものとされています。

■みなし労働時間制
使用者が労働者の労働時間を把握できない場合、みなし労働時間制という制度があります。
ただし、この制度が適用されるケースは少なく、裁判でも認められにくくなっています。
紛争予防としては、できる限り当該労働者の実際の労働時間を算定するようにしましょう。

労働時間算定の具体的方法としては、
・タイムカードの使用
・ICチップ内蔵の社員証での入社、退社時刻の把握
・業務用パソコンのログイン、ログオフ時間の把握
・労働者に業務日誌の記入、提出を求める(自己申告制)
 (内容の正確性に疑問があるときは、客観的な事情から正確性を担保する)
・事業所外での営業等の業務に従事する労働者に対して、一日の行動計画の報告を求める
などが考えられます。

参照:咲くやこの花法律事務所
企業ができる残業代請求への対策について

◇参考:みなし労働時 間制の適用が認められなかった判例
 阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件 (残業代等請求事件)
 最高裁平成26年1月24日 第二小法廷判決(労判1088号5頁)

旅行会社の添乗員業務について、労働基準法38条の2第1項本文にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断された事例。

労働者の自己申告の正確性に疑問が生じる場合も想定されますが、その場合にも客観的に正確性を確認する方法があれば、労働時間の把握が可能であると判断されます。
上記判例の控訴審判断では、以下の点により業務日誌の記載内容の正確性の担保が可能と判断されました。
・添乗員業務であれば、運送機関の出発時刻、到着時刻により、始業、終業時間の把握の参考になる。
・添乗員の旅程管理には多くの現認者が存在し、虚偽の記載をすれば発覚する可能性が高い。
・記載内容の合理性に疑問を持てば、使用者は添乗員や現認者、施設等に確認することができる。
・虚偽記載は、参加者のアンケートや苦情からも明らかになる。

残業代の支払いを求めて訴えられた場合

1.請求から裁判までの流れ
 内容証明郵便等での請求
  ↓
 交渉
  ↓
 労働審判(訴訟より簡易で迅速な解決方法。対処にスピードが求められます。)
  ↓
 訴訟

参照:
裁判所Webページ ‐ 労働審判制度について
咲くやこの花法律事務所
 未払い残業代の請求で従業員から訴えられた時の対処方法

2.法的に残業代を請求できない労働者
残業代バンク ‐ 法的に残業代を請求できない人もいます

3.消滅時効
賃金請求権は請求せずに2年間経過すると時効により消滅します(労働基準法115条)。
したがって、請求されたときから過去2年分の賃金のみ支払えばよいことになります。
2年間の期間は、(月払いであれば毎月の、週払いであれば毎週の)給与支給日から算定します。
残業代バンク ‐ 賃金請求権は2年間有効です

おわりに

 慣例に流されて、法的には労働時間に含まれるべき時間を含めずに労働時間を算定していたり、労働時間の管理が杜撰になっていたり、ということがよくあり得ます。
 未払賃金請求が増えてきている状況を踏まえ、自社の労働時間、賃金の算定について見直してみるとよいでしょう。

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