使用者責任のまとめ
2016/07/13   コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法, その他

今から約半年前の平成27年の9月中旬に、
被用者(被用者は主に従業員をイメージしてください。)が、
使用者(使用者は、主に雇っている企業をイメージしてください。)
所有の自動車を職務遂行のさなか、交通事故を起こしたところ、
使用者は、民法の使用者責任のエイドを基に、被害者に対して賠償金を支払いました。
これに対して、被用者の不祥事を代わりに賠償した使用者が、被用者に対して求償をしました。
この事案で裁判所は、被用者の使用者に対する求償を認める判断を下しました。
(佐賀地判平27・9・11、判例時報第2293号)
裁判所が、このような被用者の使用者に対する求償権の行使をみとめたことは、
裁判所が使用者責任の条文のうち、民法715条3項の実際の運用について1つの解釈を示したといえます。
そこで、今回は、上記条項を含む、使用者責任(民法715条)について検討していきます。

1 使用者責任(民法715条)とは

会社の社員が、会社の業務にあたってトラブルや事故を起こしたとき、被害者の会社に対する損害賠償請求を認める制度です。
他方で、法は企業側に常に賠償責任を認めているわけではなく、企業側の免責を一定の場合に認めています。
すなわち、民法715条1項ただし書きは、使用者が被用者の選任及び監督について相当の注意をしたとき、
または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者の責任を免責する旨を規定しています。
もっとも、現在では使用者の免責を認めるものはほとんどなく、事実上、無過失責任とされています。
そうしますと、使用者責任は、企業側にとってかなりの脅威になっているといえます。
使用者責任(民法715条)とは
(出典 近江法律事務所)

2 趣旨と要件

・趣旨
報償責任の法理
使用者責任の趣旨は、報償責任の法理にあります。
具体的には、企業側は、従業員の生産活動を通じて、
実際に利潤を上げているといったメリットを十分受けてている。
しかし、従業員の不祥事・不法行為の発生等、企業にとって
デメリットな出来事が起きた場合、企業が一切の責任を免れてしまうのは、
不公平ではないかといった考えです。
趣旨
(出典 交通事故・損害賠償請求ネット相談室)
・使用者責任の要件
①当該被用者の行為が民法709条の要件を充足すること
②使用者と被用者の指揮監督関係
③当該行為が、使用者の事業の執行中に発生したこと
④被害者の損害の発生
⑤①と④との間の因果関係
要件
(出典 近江法律事務所)

裁判例

(1)使用者と被用者の指揮監督関係の要件(上記要件②)について判示した裁判例
・最高裁平成16年11月12日判決
階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について、
最高裁は、暴力団の最上位の組長と下部組織の構成院との間には、民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立していることを認めました。
また、階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為が
民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」(上記要件③)した行為に当たるとして、
暴力団の組長の損害賠償責任を認めました。
最高裁は、正面から指定暴力団の存在を社会的存在として認めていません。
しかし、本判決は最高裁が、暴力団の組長と末端組員との関係について、
通常の私企業とその従業員との関係に類似していることを認めた点で、
実務上の意義が大きい最高裁判決です。
最高裁平成16年11月12日判決
(最高裁判所HP)
(2)事業執行性の要件(上記要件③)に関する裁判例
・最判昭和40年11月30日

 会社の会計係中の手形係として手形作成準備事務を担当していた係員が、
手形係を免じられた後に会社名義の約束手形を偽造した事案で、
既に当該従業員を手形作成行為から免じていた会社側に、
手形偽造行為についての責任が認められるのか争われた事案です。
最高裁は、右係員が、なお会計係に所属して割引手形を銀行に使送する等の職務を担当し、
かつ、会社の施設機構および事業運営の実情及び
係員が権限なしに手形を作成することが
客観的に容易である状態に置かれている等の事情があったことを重視して、
手形偽造行為が、民法第715条1項にいう「事業の執行に付き」なした行為と解釈できるとして、
結果として会社の損害賠償責任を認めました。
最高裁昭和40年11月30日判決
(最高裁判所HP)
・最判昭43.4.12
被用者に手形振出の権限がないものの、当該被用者が手形の交付や注文等の仕事に携わる地位にあり、
手形の作成交付自体に無縁ではなかった場合における、被用者の手形偽造行為について使用者の責任が争われた事案です。
最高裁は、仮に党愛従業員に手形振出の権限がなくても、、当該偽造行為は「事業の執行について」なされたものと判断して、
企業の責任を認めました。
(出典 近江法律事務所)
・最高裁昭和46年12月21日判決
運送会社に自動車助手として雇われ、業務上急用の際には会社所有の第一種原動機付自転車を運転することの許諾を得ていて、
その鍵を自由に持ち出せる状況にあつた被用者が、勤務時間終了後に私用のため無断で右自転車を運転して事故を起こした事案で、
最高裁は、使用者の運送会社の党が当該交通事故に対する損害賠償責任を認めました。
最高裁昭和46年12月21日判決
(最高裁判所HP)
・大阪地判平10.12.21
終業後の職場外での飲み会における上司の女性社員に対する性的いやがらせについて、当該女性社員が会社を訴えたところ、
裁判所は上記嫌がらせが「事業の執行について」なされてものと判断して、企業側の責任をみとめました。
大阪池判平成10年12月21日判決
(出典 近江法律事務所)

・東京地判平6.1.27
被用者が職場で第三者に加えて傷害を負わせた事案で、被害者が加害者の使用者である企業を訴えたところ、
当該傷害事件が「事業の執行について」なされたものと判断して、企業の責任を認めました。
東京池判平成6年1月27日判決
(出典 近江法律事務所)
以上を踏まえると、最高裁及び裁判例は、
使用者責任について当該従業員が企業から与えられていた業務内容や、
権限の範囲内で発生した不祥事か否かを重視しているものといえます。
また、仮に当該事故等が、従業員の業務内容には含まれていなくても、
他人からみて、あたかも当該行為(上記の裁判例で言えば、手形行為)が、
当該被用者の職務範囲に含まれていると誤信させるような場合には、
要件③の解釈を緩和して、広く使用者の責任を認めています。

(3)3項の求償権に関する裁判例
・最高裁昭和51年7月8日判決
 石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により直接損害を被り、
かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた事案で、使用者が被害者に対して賠償しました。
そこで、使用者が肩代わりした賠償金を求償といったかたちで、当該被用者に請求しました。
最高裁は、このような場合、使用者は、肩代わりした賠償金全てを被用者に請求できるわけではない。
信義則上右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎないと判示しました。
この判断は、現実に被害者に対して賠償した使用者の被用者に対する内部分担について、
最高裁が無制限の求償に待ったをかけた判断といえます。
・前掲佐賀地裁平成27・9・11判決
被用者が使用者所有の自動車を職務のため運転中に事故を起こし、被害者に賠償金を支払った場合において、被用者の使用者に対する求償を認めました。
この判断は、上記最高裁判決とは逆に現実に賠償した側が使用者ではなく、被用者であった事例ですが、
裁判所は、不幸行為を起こした被用者の使用者に対する請求を認めた点に意義があります。
(出典 判例時報第2293号)

4 企業側の対策

・使用者賠償責任保険への加入
使用者賠償責任保険・東京海上日動
(出典 東京海上日動HP)
使用者賠償責任保険・三井住友海上
(三井住友海上HP)

5 コメント

確かに一見して、企業側にとって使用者責任は、
自分が雇っている被用者の不法行為の尻拭いを
企業がしなければなりません。
そうしますと、企業にとっては、損害賠償等の
想定外の出費を余儀なくされる制度ともいえます。
しかし、かかる企業の責任の重さにかんがみて、
大手をはじめとする保険会社は使用者賠償責任保険の
加入を提案しています。
そうしますと、現行の保険制度を通じて企業の上記リスクは
相当程度に軽減されされているといえます。
また、企業としては、自分が雇っている被用者を通じて
利潤を得ている以上、その反面において、
被用者の業務遂行中の不祥事に
ついても責任を持つ相当の覚悟が必要となってきます。

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