近年の賃金不払いトラブルまとめ ~日本相撲協会、スシローなど~
2024/02/26 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
昨年から今年にかけ、企業や団体が賃金不払いで勧告を受けたり、書類送検される事案が複数確認されています。
2月には福井県の建設会社が、社員6人の賃金合わせて約1260万円を期日までに支払わなかったとして、会社と社長が労働基準法違反の疑いで書類送検されました。また、回転寿司チェーン大手企業や相撲協会が是正勧告を受けた事例もあります。
賃金をめぐるトラブル
不適切な労務管理が引き金で発生する労働基準法違反行為。悪質な場合には刑事罰の対象となります。
中でも、特にセンシティブな問題が賃金の支払いに関するトラブルです。近年でも、以下のような賃金不払いトラブルが報じられています。
■福井県の建設会社
福井県小浜市にある建設会社で、6人いる社員の昨年分の賃金のうち、あわせて約1260万円を決められた期日に支払わなかったとして、敦賀労働基準監督署は、2月20日、労働基準法違反の疑いで会社と社長を書類送検しました。未払い賃金のうち、一部は期日を過ぎてから支払われたということですが、全額は支払わなかったということです。
■スシロー
回転寿司チェーン大手のスシローを運営する株式会社あきんどスシロー。その、あきんどスシローに対し、中央労働基準監督署は、23年12月25日、未払い賃金に関する是正勧告を行ったということです。
アルバイトの男子大学生の賃金計算の際、5分未満の端数を切り捨てて労働時間を算出していたため、未払い賃金が出たとしています。
■日本相撲協会
向島労働基準監督署は、23年12月26日、職員への時間外労働の賃金未払いがあったなどとして、日本相撲協会に対し是正勧告を行いました。
この是正勧告より前の2023年3月、日本相撲協会のコンプライアンス委員会委員長宛に職員への賃金未払いや、パワーハラスメントがあることなどを告発する文書が届き、コンプライアンス委員会は職員へのヒアリングなどの調査を行ってきたといいます。その結果、退職者を含む職員67人に対し、時間外労働の賃金未払いがあったことが判明しました。
日本全国での一年間の賃金不払い額は計120億円超
厚生労働省が昨年7月に発表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」によりますと、2022年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数は約2万件(対象労働者約18万人)。その金額は120億円を超えるといいます。
また、送検された事例としては、
(1)時間外労働割増賃金の支払額に上限を設け、上限を超える時間外割増賃金を全額支払っていなかったケース
(2)時間外割増賃金を支払わず、監督官に労働時間の内容など虚偽の陳述をし、虚偽の内容を記載したタイムカードや賃金台帳を提出していたケース
などが紹介されています。
罰則について
残業代未払いなどを行った場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条)。
この場合、罰則の対象となるのは「法律に違反した者」となっているため、会社の代表者だけでなく、違法な残業を命じている管理職なども責任を問われることがあります。また、法人罰もあり、会社に罰金刑が科せられる可能性があります(労働基準法第121条)。
さらに、賃金不払いトラブルでは、従業員から賠償請求をされるなど民事責任を問われることもあります。未払い分の賃金の支払い義務のほか、以下についても支払義務が生じるおそれがあります。
(1)遅延損害金
退職前においては法定利率である年3%であるところ、退職後では年14.6% になります。
(2)付加金
未払賃金の支払いをめぐる訴訟の際、裁判所の裁量で支払いを命じられる金銭です。対象となる未払賃金は、解雇予告手当、休業手当、時間外・休日労働等に対する割増賃金、年次有給休暇中の賃金となっています。
コメント
過去の送検事例を見ていくと、社内慣習で残業代の支払いに上限が設けられていたり、労働者に不利な賃金算定方法が採用されていたりと、労働基準法違反が社内で常態化しているケースが散見されます。
しかし、違法性の認識がない場合または小さい場合でも、送検され刑罰が科されるケースがあるため要注意です。
また、刑事罰や行政処分を受けると会社名が報道されたり、従業員から民事訴訟を提起される可能性もあり、未払い分以上の損害が会社に降りかかってきます。普段から適切な労務管理が行われているのか、支払いがスムーズに実行されているのか、社内各部署と綿密に連携することが重要となります。
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