まぎらわしい表示は紛争のもと、不正競争防止法関連の判例のまとめ
2019/12/09   コンプライアンス, 危機管理, 不正競争防止法

1 はじめに

 読者の皆様は、自分が買おうと思っていた物と似た名前の商品を購入した経験はないでしょうか。消費者目線では「買いたいものを買えなかった」という不満が残りますが、企業からすると本来得られるはずだった利益が得られなかったり、類似品が粗悪な場合に自社製品の評価が下がってしまう危険があります。
 こうした問題に対処すべく、不正競争防止法は、他人に周知されている商品名と同一又は類似する商品表示を使用して、混同を生じさせる行為(2条1項1号)を禁じています。
 今回は、不正競争防止法2条1項1号等の該当性が争われた事案をご紹介します。(以下の事案中の強調部分は、筆者によるものです。)

2 ① 東京高等裁判所平成15(ネ)第1430号 平成15(ネ)第2994号 平成15年9月25日判決

(1) 事案の概要
 原告が粉末タイプの超低カロリー栄養食品の製造・販売に際し、その容器・包装等付している標章と類似する標章を付した同種の製品を製造・販売する被告に対し、原告が、当該標章は著名又は周知商品等表示に該当するとして、被告に対して不正競争防止法に基づき、被告標章の使用の差止め及び損害賠償を求めた事件。
(2) 争点
ア  原告標章の「著名又は周知商品等表示」(不正競争防止法2条1項2号、1号)該当性。
イ 被告標章が原告標章と類似するか。
ウ  需要者の間で被告商品につき出所の「混同を生じさせる」(不正競争防止法2条1項1号)おそれがあるか。
(3) 当時者の主張する損失
被告の売上額(販売額)から売上原価(仕入価額)を差し引いた粗利益から、経費を差し引いた額を被告が受けた「利益の額」=損害として請求
(4) 裁判所の判断
ア  有名雑誌を媒体とする宣伝広告開始から5年が経過し、その販売実績が約1669万食分に達した平成6年末までに、原告が商品に付して使用する標章は、需要者の間に広く認識されるに至った。
→ダイエット食品は、需要者の範囲が限定されるので、「著名」とは言えないが、「周知」「商品等表示」該当性は認められる。
イ  両者の標章は「マイクロ」「エット」が共通する。そして、「シルエット」からは、一般的な「影」という意味のほか、減量、痩身により得られる美しい体型という観念を生じ得るから、両者の標章は、観念が類似するといえ、類似性があるといえる。
ウ  本件商品は、通信販売を主たる取引形態とし、そこにおいては、商品名ないし標章が商品の購入を決する際に需要者に与える印象は大きいといえるので、「混同を生じさせる」おそれがあるといえる。
(5) 備考
原告の従業員が在職中に、原告商品の売れ行きが好調であったため、その利益に便乗しようと、原告標章と類似する登録商標を商標登録出願をしています。被告はその権利を譲渡されたことから、被告標章は、登録標章に当たるものの、それに基づく抗弁は権利濫用として排斥されています。
このことから、登録標章であれば何でもよいというわけではなく、注意が必要です。
(参考)
レクシア特許法律事務所 弁護士 松井 宏記
「不正競争防止法2条1項1号の「類似」そして「混同」」

3 ② 東京地方裁判所(第一審) 平成15(ワ)第17358号 平成17年5月24日判決

(1) 事案の概要
組立マンホールを製造販売する原告X1、及び上下水道及び水路施設用資材の製造販売等を業とする原告X2が、建築資材や建築金物の販売等を業とする被告らに対し、不正競争防止法に基づき、損害賠償等を求めた事件
(2) 争点
ア 被告の商品が、原告の「商品摸倣」(不正競争防止法1条1項3号)したものといえるか。
イ 原告の商品が「商品等表示」(不正競争防止法1条1項1号)に該当するかどうか。
(3) 当時者の主張する損失
平成14年1月1日から平成15年1月15日までに製造販売した合計4万9841本及び平成15年1月16日から同年5月9日までに製造販売した合計1万4991本の売上額約2000万円。
(4) 裁判所の判断
ア  原告と被告の商品は、基本的形態がほぼ同一である。しかし、この基本的形態は、他社の製品にも使用されておりンホール用足掛具の基本的な構造であるといえる。そして、足踏部及び側部において顕著な相違点が認められ、原告「商品の形態を模倣」した商品であるということはできない。
イ  商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないから、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。
(5) 備考
本件マンホール用足掛具は、使用者又は発注者のほとんどが官公庁等の専門業者であり、一般市民が店頭で商品をみて購入するような流通形態とは異なるという点で特殊性を有しています。そのため、一般消費者による混同が考えにくい事案であったようです。
(参考)
武川国際特許商標事務所HP 不正競争防止法 判例集 (9) 「マンホール用ステップ事件」
判決文
物件目録等

4 ③ 大阪高等裁判所(控訴審) 平成18(ネ)第2387号 平成19年10月11日判決

(1) 事案の概要
 原告が製造販売する胃腸薬と類似する包装全体の表示態様を有し、「正露丸」「SEIROGAN」の各表示を包装に使用する被告の製品につき、原告が不正競争防止法に基づき、製造販売の差止め及び同表示等を付した包装の廃棄、及び損害賠償を求めた。
(2) 争点
ア 原告製品の包装箱の表示態様の「商品等表示」(不正競争防止法2条1項2号又は1号)該当性。
イ 「正露丸」という表示の「商品等表示」(不正競争防止法2条1項2号又は1号)該当性。
(3) 当時者の主張する損失
原告は昭和29年以降、宣伝広告費として年間約2000万円投じてきた。また、原告が平成7年11月から平成17年3月までの間に投入した新聞・テレビ・ラジオ等による宣伝広告費用は、合計約60億円であった。この投下資本により、シェア獲得に成功したが、製品表示においてブランド構築に至らず、投下資本の回収に失敗したことになる。
(4) 裁判所の判断
ア 取引業者・一般消費者において,「ラッパの図柄」を度外視した包装態様のみでは,商品の出所表示機能を有するものとはいえない。
イ 「正露丸」の語は 遅くとも昭和29年当時本件医薬品の一般的な名称として国民の間に広く認識されていた(普通名称にすぎない)ので、当該表示が出所表示機能を有するといえるためには、昭和29年以降の事情の変化により原告製品を識別する商品表示性を取得したといえなくてはならないが、そのような事情があるとは言えない
として「商品等表示」該当性を否定。
(5) 備考
原告は、今回の事件まで類似商品に主な対応をしてきませんでした。本件製品の販売を開始した後、他の「正露丸」製造会社が類似表示を行うことに対し、その都度、対応すれば、「ラッパの図柄」だけでなく、表示態様、「正露丸」という名称についても他社との差別化を図ることはできたのではないかと思われます。
(参考)
判決文
商標判例データベース
商品の図につき
ハフポストHP 『「正露丸」訴訟、「ラッパのマーク」が決め手で大幸薬品が敗訴』

5 ④ 「タカギ」事件・東京地裁平成30年7月26日判決

(1) 事案の概要
 原告が、インターネット上のショッピングモールの店舗において、被告らが原 告の登録商標と類似し、また原告の著名又は周知な商品等表示と類似する複数の標章を使用して家庭用浄水器のろ過カートリッジを販売しているなどと主張して、被告グレイスランドに対して商標法36条1項及び不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条1項に基づき上記各標章の使用の差止め並びに商標法36条2項及び不競法3条2項に基づきウェブサイトからの上記各標章の 除却を求めるとともに、被告らに対して民法709条及び民法719条1項前段に基づき(Aに対しては選択的に会社法429条1項及び同法597条に基 づき)損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案
(2) 争点
 ア 原告商標又はカタカナ3文字の「タカギ」(以下「本件カタカナ表示」 という。)に「周知性」(不競法2条1項1号)が認められるか
 イ 原告商標又は本件カタカナ表示と被告標章1ないし3が類似しているといえるか
 ウ 被告が被告標章1ないし3を使用することは不競法2条 1項1号にいう商品等表示の使用に該当するか
 エ 被告が被告標章1ないし3を使用することにより原告の 商品又は営業との間に混同を生じさせるか
(3) 当時者の主張する損失
 被告は、平成28年11月15日から平成29年4月14 日までの間に少なくとも被告商品について合計454万5000円を売り上 げ、その利益率は少なくとも50%を下らないことに照らせば、平成28年 11月15日から平成29年4月14日までの間に合計227万2500円 の利益を得たというべきであるから、商標法38条2項及び不競法5条2項 15 により上記金額が原告の損害額と推定される。
(4) 裁判所の判断
ア 原告が蛇口一体型浄水器市場の販売 シェアでは2位以下に大差を付けて全国1位であったことや原告が相当の費用をかけて広告宣伝をしていることも併せて考慮すれば、本件カタカナ表示は、日本国内全域において周知性を有しているものと認めるのが相当
イ 本件カタカナ表示と被告標章1ないし3の要部は「タカギ」であるといえ、呼称・観念・外観も「タカギ」というカタカナ3文字で一致しているから、本件カタカナ表示と被告標章1ないし3は類似している。
ウ 平成28年11月1日から(タイトルタグ及びメタタグでの使用は15 日から)平成29年3月22日までの間の態様によって被告ウェブページ 5 のタイトルタグ及びメタタグ並びに被告ウェブページに被告標章1及び2 を記載した行為は,不競法2条1項1号にいう商品等表示の使用に該当する。
エ 不競法2条1項1号の混同を生じさせるか否かは、商品等表示の使用方法や態様等といった具体的事情を基にして、一般的な需要者が普通に払う注意を基準として判断されるべきであり、また、現実に混同が生じることまでは 必要でなく、実際に商品等を購入する時点で需要者に混同を生じさせるおそれがあることをもって足りると解するのが相当。
 ショッピングモール内の検索結果を表示するウェブサイトにおいて、被告商品の写真の横に本件カタカナ表示が表示され、空白部分の後に商品の品名等が表示される一方で、原告製品でないことを示す説明は表示されなかった。一般の検索結果の表示画面においても、原告製品でないことを示す説明は表示されず、メーカー純正品でないとの説明の文字の大きさはタイトルより小さかった。
として、出所の混同を生じるおそれがあると認定。
(参考)
判決文
商標判例データベース
解説
弁護士法人イノベンティアHP
「非純正品を販売するウェブサイトのタイトルタグ・メタタグの表示について商品等表示性を肯定したタカギ事件東京地裁判決」(著者:弁護士 藤田知美)

6 コメント

 上記判例を見ると、周知性や混同といった要件は、消費者の視点から影響度等を判断しているといえます。そのため、法務担当者としては、自社の製品が有名な商品と類似している場合、消費者目線を持って類似性を考える必要があるといえます。
 また、事案③で指摘したように、類似商品が出た場合にそのまま放置せず、差別化を図ることが必要です。自社の利益を守る、他社から損害賠償等を受けないためにも、自社製品に興味を持つことも法務担当に必要と考えます。

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