派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止まとめ
2019/06/24   労務法務, コンプライアンス, 労働者派遣法

0 本まとめの目的

 労働者派遣においては、就業開始前に派遣先が労働者を特定することを禁じています。具体的には、企業が派遣労働者に就業を依頼するとき、労働者を選ぶことはできません。派遣元企業は必要な技能を満たす限り労働者を推薦することができますし、労働者が就業先を選ぶこともできますが、派遣先企業に選択の権利はありません。
 しかしながら、さまざまな事情により、事実上の面接・選考が行われているのがなしくずしに行われており、企業・労働者ともに違和感を感じなくなっているのではないでしょうか。
 今回は、改めて派遣労働者を特定することを目的とする行為の制限についてまとめました。

派遣労働者を特定することを目的とする行為の具体例(厚生労働省のサイトより)

派遣労働者を指名すること、派遣就業の開始前に派遣先が面接を行うこと、 履歴書を送付させることなどは原則的にできません。(紹介予定派遣の場合は例外です。)

1 労働者派遣制度

 労働者派遣は、職業安定法44条で禁止されている、労働者供給事業の禁止の例外です。

労働者供給事業の原則禁止の趣旨
労働者供給事業においては、労働者供給事業を行う者の一方的な意思によって、労働者の自由意思を無視して労働させる等のいわゆる強制労働の弊害や支配従属関係を利用して本来労働者に帰属すべき賃金をはねるといういわゆる中間搾取の弊害が生じるおそれがある。このため労働者供給事業は本来労働者の基本的権利を侵害し労働の民主化を阻害するおそれが大きいものである。したがって、憲法に定められた労働者の基本的人権を尊重しつつ、各人の有するその能力に適合する職業に就く機会を与え、産業に必要な労働力を充足し、もって、職業の安定を図るとともに、経済及び社会の発展に寄与することを目的とする法においては、(中略)何人も労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働に従事させてはならないこととしている。(法第44条)


(厚生労働省サイトより)

労働者供給事業の意義等(PDF)

(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

2 労働者派遣法第26条第7項の趣旨

 労働者派遣制度は、雇用者にとっては急な欠員に対して適切な能力を持った人材を迅速に得られる利点があり、被用者にとっても、時間や勤務地を指定して仕事を探すことができるほか、選択の自由があることの利点があります。労働者供給事業の例外として派遣が認められているのは、このためです。
 派遣先企業が派遣労働者を選別する権利を持つと、派遣労働者は、派遣元に雇用されたうえで派遣先にも雇用されるのと同じ効果を生じてしまい、上述した「労働者供給事業の禁止」に抵触してくることが禁止規定の趣旨です。
 また、もうひとつは、派遣先企業での選別を許すことで、雇用者のメリットが最大化される一方で、生活費を労働に依存する被用者の立場のみが弱くなり不当になるという点が指摘できます。
 労働者の提供できる財産上は労働力ですが、労働力は貯めておくことのできない資本です。この立場の弱さを補うのが労働法規であり、本規定もそのひとつといえます。
 なお、労働者派遣法第26条第7項の文言は、努力義務であるかのような書きぶりですが、派遣元指針第2の11、派遣先指針第2の3においては禁止されており、労働者からの自発的な働きかけに関しても、本規定との抵触に十分留意することとされています。

派遣元指針第2の11
11 派遣労働者を特定することを目的とする行為に対する協力の禁止等
(1)派遣元事業主は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為に協力してはならないこと。なお、派遣労働者等が、自らの判断の下に派遣就業開始前の事業所訪問若しくは履歴書の送付又は派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定することを目的とする行為が行われたことには該当せず、実施可能であるが、派遣元事業主は、派遣労働者等に対してこれらの行為を求めないこととする等、派遣労働者を特定することを目的とする行為への協力の禁止に触れないよう十分留意すること。

派遣先指針第2の3
3派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止
派遣先は、紹介予定派遣の場合を除き、派遣元事業主が当該派遣先の指揮命令の下に就業させようとする労働者について、労働者派遣に先立って面接すること、派遣先に対して当該労働者に係る履歴書を送付させることのほか、若年者に限ることとすること等派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと。なお、派遣労働者又は派遣労働者となろうとする者が、自らの判断の下に派遣就業開始前の事業所訪問若しくは履歴書の送付又は派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定することを目的とする行為が行われたことには該当せず、実施可能であるが、派遣先は、派遣元事業主又は派遣労働者若しくは派遣労働者となろうとする者に対してこれらの行為を求めないこととする等、派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止に触れないよう十分留意すること。

3 違反の効果

 労働者派遣法第26条第7項違反には罰則はありません。しかし、行政処分においては勧告(同法49条の2第1項)、公表(同法49条の2第2項)の対象になります。

4 派遣先企業の対応

 派遣先企業としては、なるべく少ない費用、負担で、なるべく優秀な労働者がほしい。また、不適当な労働者を受け入れてしまうリスクを最小限にしたいですね。そういったニーズを否定することはできません。
 そこで、一つには、紹介予定派遣を利用することが考えられます。紹介予定派遣においては、派遣先が派遣労働者を特定する行為ができます。ただし、濫用を防ぐために、6か月を超えて派遣労働者として雇うことはできず、6か月を経過したときに雇用しなかった場合には理由を明示しなければなりません。
紹介予定派遣とは(PDF)

 また、派遣元企業に対して、あらかじめ条件を明確にし、適切な人物を推薦するように要請することが考えられます。大手の派遣会社では、タイピングの速度や計算ソフトのスキルについて、定量的な試験を実施して数値化するなどの工夫をしています。言語試験についての客観的な点数を要求することも、業務と関連する限り差し支えないでしょう。
 指示できる条件は、業務に必要なスキルに関連するものに限られます。性別を指定することはできませんし、年齢を理由として差別的取り扱いをしてはいけません(雇用対策法第10条及び職業安定法第3条)。

(職業安定法)第三条 何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

 もし、企業が、必要とする労働者に、単なるスキル以上の人格的資質を求めるときは、正規雇用を検討すべきでしょう。

(参考テキスト)
一般社団法人 日本人材派遣協会 『派遣元責任者講習テキスト 労働者派遣法(第3版)』

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