【特集】第4回 株主の議決権行使について
2017/10/24   商事法務, 総会対応, 会社法

第1 はじめに

 こんにちは。企業法務ナビの企画編集部です。今回は株主総会における株主の議決権行使について紹介します。株式会社において、株主の議決権行使は、会社所有者たる株主が会社の経営や意思決定に参加できるほぼ唯一の機会です(会社法105条1項3号、308条以下)。特に近年においては、厳格なコーポレートガバナンスの保持が求められており、適正な議決権行使の徹底が会社評価に大きく影響を与えます。
 会社に属する法務担当者として、議決権行使のいかなる点に注意しなければならないのか、以下取り上げていきたいと思います。

第2 書面投票による議決権行使について

1 書面投票による議決権行使

 会社法311条1項は、「書面による議決権行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに当該記載した議決権行使書面を株式会社に提出して行う」と規定しています。
 そして、会社法施行規則(以下「規則」という)69条は、当該期限を、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時、または、特定の日(株主総会の日時以前で、会社法299条1項の規定により通知を発した日から2週間を経過した日以後に限る)を書面による議決権行使期限とする旨を定める場合はその特定の時までとしています。
 書面投票を認めることは、株主の議決権行使の機会の確保に資するとともに、会社側も株主総会の定足数の確保を図ることができます。
 そして、取締役が株主総会の招集決定事項に、書面による議決権の行使ができる旨を決定した場合、招集通知にその旨を記載しなければなりません(会社法298条1項3号)。また、株主が1,000名以上の会社では、上場会社で招集者が委任状の勧誘を行う場合除き、書面による議決権行使が義務付けられています(会社法298条2項)
 なお、株主が議決権行使書面を提出した場合であっても、会社は当該株主が株主総会に出席し議決権を行使することを認めなければならず、その場合、書面による議決権行使はその効力を失います。

2 議決権行使書面の記載事項

 会社が株主に交付する議決権行使書面の記載事項は、次の通りです。
 ①各議案についての賛否を記載する欄等(規則66条1項1号2号)、②一の株主が同一議案につき重複して議決権を行使した場合において、当該同一の議案に対する議決権の行使の内容が異なるものであるときにおける当該株主の議決権の取扱いに関する事項がある場合、当該事項(規則同条項3号)、③議決権の行使期間(同条項4号)、④議決権を行使すべき株主の指名または名称及び行使することができる議決権の数(同条項5号)。

《参考記事》 
議決権行使書面の記載事項(経営改善ナビ)

第3 電子投票による議決権行使について

1 電子書面による議決権行使

 会社法312条1項は、「電磁的方法による議決権の行使は、・・・株式会社の承諾を得て、法務省令で定める時までに議決権行使書面に記載すべき事項を、電磁的方法により当該株式会社に提供して行う」と規定しています。
 そして、規則70条は、当該期限を、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時、または、特定の日(株主総会の日時以前で、会社法299条1項の規定により通知を発した日から2週間を経過した日以後に限る)を電磁的方法による議決権行使期限とする旨を定める場合はその特定の時までとしています。
 株主総会の招集通知が電磁記録の方法であった場合(会社法299条3項)、会社は、正当な理由なく、上記承諾を拒むことは認められません(会社法312条2項)。

2 電子投票による本人確認

 電磁的方法による議決権行使の場合、会社側はその行使主体が議決権を有する株主なのか見極めなければなりません。この点、ウェブサイトの議決権行使画面で株主の「電子署名」や「電子認証」を求めるのが本人確認方法としては確実です。しかし、実務では、会社が株主に割り当てたパスワードと専用のコード番号などを、株主に送信してもらい株主本人と推定するのが一般的です。

3 重複行使の対応

 書面決議と電子投票が重複して行使された場合、議決権行使数の集計に混乱が生じ、株主総会の決議が確定されない事態が起こりえます。
 この事態を回避するため、会社は重複行使された場合に、いずれの議決権行使を有効と取扱うかにつき、あらかじめ株主総会の招集事項としてこれを定めることができます(会社法60条4項ロ)。その取扱いとしては、①書面投票を有効とする、②電子投票を有効とする、➂賛否がないものとみなす、④両者とも無効とすることが考えられます。

《参考記事》 
電子投票による議決権行使(経営改善ナビ)

電子投票を利用しよう(日本取引所グループ)

第4 代理人による議決権行使について

1 議決権の代理行使

 まず、会社法310条1項は「株主は、代理人によって議決権を行使することができる。」として、代理人による議決権行使を原則として認めています。その場合、株主又は代理人は、代理権を証明する書面を会社に提出しなければなりません。
 これは、議決権行使の機会の確保及び定足数確保を図るものです。また、株式会社としては、誰が株主かはあまり重要ではないため、議決権を代理人に行使させても問題はないと言えます。

2 代理人資格を株主に限定する定款規定の効力

 代理人資格を株主に限定する定款規定が、310条1項で認められた代理行使を大きく制限するものとして違法ではないか問題となりましたが、判例は、代理人資格を限定する定款規定につき、合理的な理由による相当程度の制限ならば、310条1項の趣旨に反しないとした上で、代理人を株主に限るとした部分は、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものとして、その定款を有効と判断しています(最高裁昭和43年11月1日)。
 もっとも、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨を超えて代理行使を制限する場合には、個別例外的に非株主による代理行使を認めています。

例外① 株主である地方公共団体または会社が、その職員または従業員に議決権を代理行使させる場合(最高裁昭和51年12月24日

例外② 株主が弁護士に議決権の代理行使を依頼した場合(神戸地裁尼崎支部平成12年3月28日)※弁護士による代理行使を認めなかった裁判例もあります。これは、具体的ケースで株主総会かく乱のおそれの有無で判断が分かれたものと思われます。

《参考記事》 
株主総会における議決権行使の代理人資格を株主にすることは認められるか(BUSINESS LAWYERS)

3 会社が代理人資格を確認する方法

 会社は、株主総会の招集を決定する際に、代理人による議決権行使に関して、代理権や代理人の資格を証明する方法について定めることができます(会社法298条1項5号、規則63条5号)。また、あらかじめ定款や株式取扱規則等において、それらの証明方法を定めておくことも問題ないとされています。
 代理権や代理人の資格についての証明方法につき、来場者が会社所定の委任状を提出した場合には、その者を株主の代理人として扱うことになります。他方、来場者が私製の委任状を提出した場合には、委任状と併せて議決権行使書用紙を提出することを求め、それによって委任状の真正を確認するという方法が実務の主流となっています。

《参考記事》 
株主総会の受付で代理人の審査をどのように行うべきか(BUSINESS LAWYERS)

第5 スチュワードシップ・コードの改定

1 議決権行使結果の個別開示について

 金融庁は、2017年5月29日、「日本版スチュワードシップ・コード(以下、「日本版SSC」という)」(「責任ある機関投資家」の諸原則)を改訂し、議決権行使結果の個別開示を原則とするよう要請しました。
 従来、日本の機関投資家は、議案の種類ごとに賛成・反対議案数の集計表を開示するに留まっていました。しかし、今回、改訂日本版SSCの指針5-3において、機関投資家は「議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべき」と推奨しています。これは、「議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資する」として、機関投資家の議決権行使における透明性を高め、適正な議決権行使を図ることをその目的としています。そして、適正な議決権行使を通じて、健全な会社経営が期待されていると考えられます。

《参考記事》
日本版スチュワードシップ・コード 指針5-3(金融庁):PDFファイル

 実際に、野村アセットマネジメント、三井住友信託銀行等は議決権行使結果の個別開示に取り組んでおり、今後は個別開示が主流となると思われます。

《参考記事》
スチュワードシップ活動への取組み(野村アセットマネジメント)

国内株式議決権行使結果(三井住友信託銀行)

日本版スチュワードシップ・コード改訂は株主総会、議決権行使にどう影響したか(法と経済のジャーナル)

2 議決権行使状況の公表について

 株主は、通常、自己の調査に基づき企業を分析し、自己の判断で議決権を行使しますが、近年、議決権行使助言会社の存在感が大きくなってきています。議決権行使助言会社(以下「助言会社」という)とは、機関投資家向けに、投資先の株主総会の議案において賛成・反対の助言を行う会社をいい、米インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスの2社が最大手として存在しています。助言会社の台頭の背景としては、日本企業のコーポレートガバナンスに対する不信感の高まりがあります。東芝の不正会計発覚や、神戸製鋼所のデータ改ざん発覚は記憶に新しいでしょう。
 もっとも、無制約に助言会社の助言を許せば、その影響の大きさから、企業ないし社会の健全な発展を損なう危険性があります。会社経営陣からも、助言会社につき登録制度を導入し、助言会社の側にも運営体制の開示などを求め、企業の「統治体制をチェックする側の統治体制」を構築すべきとの声が上がっています。
 そこで、今回改訂された日本版SSCでは、議決権行使助言会社の側も「十分な経営資源を投入」しながら、「助言の策定プロセス等に関し、自らの取り組みを公表すべき」とする新たな原則が盛り込まれました。

《参考記事》
日本版スチュワードシップ・コード 指針5-5(金融庁):PDFファイル

第6 おわりに

 はじめにも述べましたが、株主の議決権行使は、株主が会社の経営や意思決定に参加できるほぼ唯一の機会であり、重要な権利です。会社法は、議決権行使の機会の確保のために、様々な規定や制度を設けています。仮に、株主の議決権行使が不当に認められなかった場合、株主総会決議取消し訴訟等にまで発展する可能性も十分考えられ、それが認容された場合、株主総会が遡って無効となり、会社の事業遂行に大きく差し障ります。したがって、会社側も、会社所有者たる株主の議決権行使に最大限配慮しなければならないでしょう。
 最終回となる次回は、株主総会における議長の権限行使にスポットを当てて、「総会の議長の権限行使について」と題して特集記事をお届けしたいと思います。
(文責:katagiri)

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