景表法における有利誤認表示についてまとめ
2017/10/19 広告法務, 景品表示法

1.はじめに
東京弁護士会は、10月11日、広告を巡り景品表示法(以下「景表法」という)違反で消費者庁から措置命令を受けた弁護士法人・アディーレ法律事務所を業務停止2カ月、元代表社員の石丸幸人弁護士を業務停止3カ月の懲戒処分としました。同事務所は、過払い金返還請求に関連し、「今だけの期間限定」などとキャンペーンを展開していましたが、実際には約5年の間事実上継続して行われていたとして、景表法第5条第2号の有利誤認表示にあたるとして、2016年2月に消費者庁が措置命令を出していました。また、平成28年度の景表法違反に対する国の措置命令件数と都道府県の法的措置件数の合計は28件で、前年度の16件から大幅に増加しています。このように、不当表示は、社会的にも見過ごせない問題となっております。そこで、今回は景表法における不当表示のうち、アディーレ法律事務所の件でも問題となった有利誤認表示についてまとめました。
「(PDFファイル)景品表示法に基づく法的措置件数の推移(平成29年3月31日現在)」
2.不当表示とは
景表法は、正式には、「不当景品類及び不当表示防止法」といい、その名の通り、不当な景品類と不当な表示を規制する法律です。ここでいう表示とは、顧客を誘引すための手段として、事業者が自己の供給する商品・サービスの品質、規格、その他の内容や価格等の取引条件について、消費者に知らせる広告や表示全般を指します。
以下、景表法が禁止している3つの不当表示のうち有利誤認表示について詳述します。なお、他の2つは、優良誤認表示(同条第1号)と、その他誤認されるおそれのある表示(同条第3号)が景表法上禁止されています。
(1)有利誤認表示とは
景表法第5条第2号は、事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、①実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの、②競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。具体的には、商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝する行為が有利誤認表示に該当します。なお、故意に偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、有利誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので注意が必要です。
(2)有利誤認表示のガイドライン
販売価格は、事業者にとっても消費者にとっても、非常に関心の高い事柄です。そのため、価格表示が適正に行われない場合には、消費者の選択を誤らせるとともに、市場における公正な競争が阻害される危険性があります。そこで、消費者庁は、販売価格の有利誤認表示に関して以下の2つのガイドラインを作成しています。
「(PDFファイル)不当な割賦販売価格等の表示に関する不当景品類及び不当表示防止法第4条第2号の運用基準」
「(PDFファイル)不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」
(3)有利誤認の事例
冒頭のアディーレ法律事務所以外にも、近年、景表法の有利誤認表示による企業に対する摘発事例が増加しています。以下、具体的な事例をみていきたいと思います。
①楽天株式会社(平成26年4月30日)
楽天株式会社は、インターネットサイトである楽天市場で、通常価格とセール価格の二重表示をしており、セール価格では通常価格の7割引などの大幅な割引になっていると見せかけていました。しかし、実際にはそのもととなる通常価格自体が存在しないものだったので、特に有利になっていることはありませんでした。楽天株式会社は、実際には通常価格が存在しないのに、それと比べて有利だとするセール価格によって消費者を惹きつけようとしたのですから、虚偽の価格を用いて広告表示したことになります。このことによって、楽天株式会社は、消費者庁から再発防止などの措置命令を受けました。
「大手企業も摘発!?景品表示法違反事例と罰則・罰金」(薬事法マーケティングの教科書)
②ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(平成29年7月19日)
ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は、同社が運営するスマートフォン向けゲーム「ディズニーマジックキングダムズ」内で、複数のゲーム内アイテムなどをパックにすることで割安に購入できるかのようにバナー広告で表示していました。しかし、実際には別々に購入した場合に比べ安くありませんでした。したがって、消費者庁は、景表法の有利誤認にあたるとして再発防止などの措置命令を出しました。これに対し、同社は、「説明表示やライブ配信番組の発言内容について誤解を招き得る表現があった」として、ゲーム内の仕様変更などの補償措置を実施し、表示についても消費者庁に自主的に報告したと言っています。
「(PDFファイル)ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁)」
その他の事例に関しては、以下のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。
「課徴金も追加!?景品表示法違反の「有利誤認」事例」(薬事法マーケティングの教科書)
3.不当表示に対する措置
景表法に違反する不当表示が行われている疑いがある場合、消費者庁は、①措置命令や②課徴金納付命令といった措置を採ります。具体的には、不当表示が行われている疑いがある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められた場合は、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる①措置命令を行います。違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。また、事業者が不当表示をする行為をした場合、景表法第5条第3号に係るものを除き、消費者庁は、その他の要件を満たす限り、当該事業者に対し、課徴金の納付を命じます(②課徴金納付命令)。
「景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか?(消費者庁HP)」
消費者庁が出す「措置命令」の意味とは?[景品表示法]
4.おわりに
平成25年秋に社会問題化したメニュー表示問題や、自動車会社による燃費データ不正問題など、近年、不当表示問題は多く見受けられます。そういったなかで、表示どおりの商品が供給されていないことに対する消費者の視線はかつてないほど厳しくなっています。そのため、不当表示は、企業の信用やブランドを大きく低下させるおそれのある、重大な経営リスクと言えます。このようなリスクを最小限に抑えるため、法務担当者の方は、自社の広告に景表法違反がないか、消費者庁のHPなどを参考にしたり、場合によっては直接問い合わせ、確認する必要があります。また、違反する広告表現が見つかった場合には、問題が大きくなる前に速やかに是正措置を施さなければなりません。
以下、不当表示防止のポイントについては、下記のサイトが参考になりますので、ご紹介させていただきます。
【景品表示法とは?】広告違反のリスクを避ける4つのポイント
<景表法>これだけは知っておきたい! 広告関係者は必見! NG事例集
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