企業年金減額と労務のまとめ
2017/06/19 労務法務, 労働法全般, その他

1 企業年金とは
企業年金は、大きく分けて自社年金と厚生年金基金・確定給付企業年金に分かれます。
2 自社年金の場合
(1)自社年金とは
自社年金とは、企業年金に関する法律に基づいていない企業独自の年金制度のことです。
(2)自社年金を減額するには
自社年金の給付額を引き下げる場合には、労働条件の変更に関するルールである労働契約法が適用されることになります。そして、給付額の引下げが「合理的なもの」であれば、自社年金の減額は可能となります。(労働契約法10条)。
労働基準法
労働契約法
3 厚生年金基金・確定給付企業年金の場合
(1)厚生年金基金・確定給付企業年金とは
厚生年金基金とは、単独又は複数の企業で設立した厚生年金基金が、国の厚生年金の一部を代行し、あわせて企業独自の給付を上乗せして支給する企業年金制度です。
確定給付企業年金とは、2002年4月に施行された確定給付企業年金法にもとづき設置される企業年金で、会社が拠出・運用・管理・給付までの責任を負う「確定給付」型の企業年金制度です。
確定給付企業年金
厚生年金基金
企業年金制度
(2)厚生年金基金・確定給付企業年金の給付額を減額するには
①現役の従業員を対象に将来の給付額を引き下げる場合
将来の給付額を引き下げるためには、規約変更についての行政庁の認可又は承認を得なければなりません。そして、規約変更も認可・承認を得るためには、法令で定められた要件を満たす必要があります。(昭和41年9月27日年発363号別紙「厚生年金基金設立認可基準」第3-7、確定給付企業年金法施行規則5条、6条、12条、13条)。具体的には以下の要件(a)(b)が必要となります。
(a)経営状況の悪化により給付の減額がやむを得ないなどの一定の場合
(b)加入者の1/3以上で組織する労働組合があるときは当該労働組合の同意、および加入者の2/3以上の同意を得ていること
厚生年金基金設立認可基準
確定給付企業年金法施行規則
②受給者に対する給付を減額する場合
受給者に対する給付を減額する場合も行政庁の規約変更の認可・承認が必要となります。そして、その認可・承認得るためには、厚生年金基金設立認可基準又は確定給付企業年金法施行規則に沿う必要があります。具体的には以下の要件が必要となります(昭和41年9月27日年発363号別紙「厚生年金基金設立認可基準」第3-7(5)確定給付企業年金法施行規則5条、6条、12条、13条、平成14年3月29日年発第0329008号)。
・①の要件(a)(b)(給付減額にかかる規約変更の認可の要件)
・基金の存続のため受給者等の給付水準の引下げが真にやむを得ないと認められる場合
・事業主、加入員及び受給者等の三者による協議の場を設けるなど受給者等の意向を十分に反映させる措置
・全受給者に対する事前の十分な説明と意向確認
・全受給者の2/3以上の同意
・希望者に対する最低積立基準額相当額の一時金の支払い
4 企業年金減額の事例(JAL)
JALは経営状態の悪化から企業年金を現役従業員で5割、OB(受給者)で3割の減額をしました。これは企業年金が減額された事例の中でもかなり大きな額と言えます。
JAL企業年金減額改定に対するとりくみについて(PDF)
JALの経営破綻で社員の年金は5割減。守られるはずの企業年金がなぜ?
5 企業年金減額を認めた裁判例(最高裁平成22年6月8日第三小法廷決定「NTT事件」)
(1)事案
NTTが、確定給付企業年金法に基づき実施している企業年金について、受給権の内容等に変更を生じさせる年金規約の変更をするために、厚生労働大臣の承認を求める申請をしました。しかし、厚生労働大臣は、規約変更は、受給権者等に対する給付の額を減額する場合に該当し、減額のために必要とされる要件も満たしていないとして、NTTに対し規約変更を承認しない旨の処分を行いました。
(2)NTTの言い分
NTTは、以下を根拠に不承認処分の取り消しを求めました。
①給付額減額の要件を定める法令の規定が無効である
②本件申請にかかる規約変更が「給付の額を減額する」場合に該当しない
③仮に②において「給付の額を減額する」場合に該当するとしても、本件の規約変更は法令に定める要件を満たす
(3)判決
【第一審判決及び原判決】 不承認処分は有効であると判断しました。
【最高裁】NTTの上告を却下しました。
企業年金の受給者減額の可否に関する判例の動向(16.Nov.10)
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