【築地移転】行政にはしごを外された際の法的対応
2016/09/08   行政対応, 民法・商法, その他


第1.はじめに

 平成28(2016)年8月31日、東京都の小池百合子知事は31日の記者会見で、11月7日に予定していた築地市場(中央区)の豊洲市場(江東区)への移転延期を正式表明しました。
 移転延期の是非はさておき、例えば11月の移転を前提に豊洲市場用に冷凍庫を新しくリース契約を締結していた卸売業者等は延期によって
使用はしていないのに冷凍庫のリース代は支払わなければならないといったように、出費せざるを得ないこともあります。
 このように、企業が国や地方公共団体の計画や決定に則って行動を起こしたのに後からはしごを外された場合、損害賠償請求等を提起することはできないのでしょうか。考えてみます。

日本経済新聞・ 小池都知事、築地移転延期を正式表明

第2.考えられるケース

1.行政の行為が撤回された場合

<具体例>
 Xは中央卸売市場内にある土地を東京都から期間の定めなく借り受け、その一部を使用していました。しかしその後東京都はその土地を卸売市場用借地として使用するため使用許可処分を撤回しました。そこで、Xは東京都に対し損失補償を求めました。

<前提知識と参考となる判例>
 行政の行為(行政行為)とは、国や地方公共団体が国民に対して法律を根拠に、一方的に権利や義務を発生させる行為をいいます。例えば、営業許可等が考えられます。
 上記の例に関して、判例は、都所有の土地につき使用許可によって与えられた使用権は、それが期間の定めのない場合であれば、当該土地が行政財産由来の用途または目的上の必要を生じたときはその時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自体にそのような制約が最初から予定しているものと考えることができます。
 したがって、もともと使用権が消滅する可能性が当然にある地位にある以上、使用権が消滅したことについて損失補償を受けることは原則としてできないとしています。
 ただ例外的に、Xが使用許可を受けるに当たりその対価の支払をしていたが、都から借りた土地の使用収益により払った対価の分の収益を上げられないと認められるような期間内に当該土地について東京都が使用する必要を生じたとか、使用許可に際し別段の定めがされている等により、その土地についての必要が生じたかどうかにかかわらずXがなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合に損失補償は認められます。

[PDF]最判昭和49年2月5日民集28巻1号1頁

2.行政計画が変更された場合

<具体例>
 Xは中央卸売市場の卸売業者であるところ、卸売市場が移転する行政計画を前提に移転先店舗のために冷凍庫Aのリース契約をしました。しかし、移転予定日が延期になったので、冷凍庫Aを使わないのにリース費用を払うはめになりました。そこでXは、東京都に対し損害賠償請求を求めました。

<前提知識と参考となる判例>
 行政計画とは一定の公の目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合的に提示する行為をいいますので、移転予定日の延期は行政計画の変更にあたります。

コトバンク・行政計画
 [PDF]東京都卸売市場整備計画(第7次)

 行政計画は、国や地方公共団体が策定します。計画の段階では拘束的計画を除いて、原則として、計画を策定した国や地方公共団体はもとより国民が計画に拘束されることはありません。 
 なぜなら、地方公共団体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、その施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることは当然あることだからです。
 とはいえ、未来に計画が変更されるからといって、行政計画に従った結果、損害が発生したとしても一切の賠償がされないとなると、行政計画に協力する気も失せます。
 そこで判例は一定の場合に、行政計画に従った結果、損害が発生した時に賠償を認めることにしています。
 その一定の場合とは、単に一定内容の継続的な計画を定めるにとどまらず、特定の人に対してその計画に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、
   かつ、
 その活動が相当長期にわたるその計画の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合をいいます。
このような場合には、この計画が活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として活動ないしその準備活動に入るのが通常だからです。
 そしてこのような場合であれば、たとえ国や地方公共団体からの勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に当該行政計画の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であっても、このように密接な交渉を持つに至った当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その計画の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないのです。

<まとめ>
 行政計画が変更されることにより、勧告等に動機づけられて行政計画に従うような活動に入った者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめます。
 したがって、行政計画に従った企業等の損害賠償請求が認められる可能性がでてきます。

[PDF]裁判所・最判昭和56年1月27日 民集第35巻1号35頁

第3.法務部として気をつけたいこと

 今までで述べた通り許可や認可といった行政の行為が撤回された場合、原則として損失補償が認められませんので、損失補償が認められる例外ケースに該当するように、例えば特約を結んでおく必要があると考えられます。
 次に行政計画の変更については、損害賠償請求が一定の場合には認められる可能性があるとはいえ、法務部としては行政計画が策定され、利益が見込めるからといってその計画を前提に即行動を起こさないようにする必要があります。
 行政計画は、あくまで計画であって後々に変更や撤回が起きる可能性があるからです。
 行政計画が策定された時は、本当に実行される可能性があるのか調査してから行動するべきでしょう。
 また、行政計画を前提に企業として行動する場合には、もしもの時の損害賠償請求に備えて、勧告や勧誘があったこと等を記録する等の証拠保全をしておくことが望まれます。

以上

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