イオン九州が最低賃金未満の時給で募集、最低賃金規制について
2022/03/09   労務法務, 労働法全般

はじめに

 流通大手イオングループの「イオン九州」(福岡市)が熊本県内の店舗で最低賃金より低い時給でパート従業員を募集していたことがわかりました。現在は訂正済みとのことです。今回は労働者への賃金規制について見直していきます。

 

事案の概要

 熊本日日新聞の報道によりますと、募集していたのはイオン九州が運営する熊本県内の「マックスバリュ」2店舗と大分県内の「イオン」1店舗とされます。このうち合志市の店舗では時給793円で、大分県由布市の店舗では792円でレジスタッフなどがイオン九州の公式ホームページで募集されていたとのことです。熊本県の最低賃金は現在821円、大分県は822円となっており、イオン九州の募集はこれらを下回っていたとされ熊本労働基準監督署などの指導を受け、現在は訂正されております。イオンは時給を掲示するシステムの更新ができておらずチェック漏れがあったとし、過去最低賃金で雇用した従業員はいないとしております。

 

労働基準法による賃金規制

 労働基準法24条1項では、賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないとしております。以前にも取り上げた賃金払5原則です。そして労働者の労働時間は1日8時間、週40時間を原則とし、それを超える時間外労働または休日労働には25%の割増賃金を支払う必要があります(37条1項)。また午後10時~午前5時までの深夜労働についても25%の割増賃金となり、時間外労働など重なった場合は過重され50%の割増賃金となります(同4項)。前日の労働が翌日までずれ込んだ場合、翌日の始業時刻までは前日の超過勤務時間として扱われるとされております。またこれらの規定は強行規定であることから労使の合意によって排除することはできないとされます。

 

最低賃金法による規制

 最低賃金法4条1項によりますと、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとしております。また労働者との労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めてもその部分は無効され、無効となった部分については最低賃金と同じ額で定めたものとみなされることとなります(同2項)。複数の最低賃金の適用を受ける場合はもっとも高額なものが適用されます(6条1項)。これらの規定は職種や正規・非正規などに関わらず適用されますが、例外として精神または身体の障害により労働能力が著しく低い場合、試用期間中の場合、厚労省令で定める認定職業訓練の場合、軽易な業務の場合、断続的労働の場合には都道府県労働局長の許可を条件に個別に最低賃金の減額が可能です(7条)。違反した場合には50万円以下の罰金となっております(40条)。

 

地域別最低賃金

 最低賃金は各都道府県ごとに定められております。これを地域別最低賃金と言い、一定の地域ごとに中央最低賃金審議会または地方最低賃金審議会の調査審議を求め、その意見を聴いて厚労大臣または都道府県労働局長が決定することとなっております(10条1項)。これは毎年改定されることとなっており、労働局長が引き上げが必要と認める場合は審議会に諮問し答申を受けて改正されることとなります。最低賃金は(1)労働者の生計費、(2)労働者の賃金、(3)通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して決定されることとなっております(9条)。特に労働者の生計費に関しては、労働者の健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に関する施策の整合性に配慮して考慮することが求められております。

 

コメント

 本件でイオン九州は熊本県と大分県内で最低賃金未満の時給でレジスタッフなどのパートを募集していたとされます。現在は訂正され、実際にその金額で雇用された例は無いとされておりますが、仮に労働契約が締結されていた場合は、その部分は無効となり最低賃金が時給となります。以上のように労働者の賃金については労働基準法で割増賃金などが定められており、最低賃金法でその下限が定められております。2022年3月現在の東京都の地域別最低賃金は1041円となっており全国1位となっております。2012年では850円であったことから、ここ10年間で最低賃金は191円増加したこととなります。このように地域別最低賃金は全国的に年々増加しており、現在最低賃金を満たしていても、改定によって下回ることも有りえます。毎年の改定に留意しつつ労務管理を行っていくことが重要と言えるでしょう。

 

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