特殊詐欺で弘道会トップを提訴、使用者責任について
2021/10/06   コンプライアンス, 民法・商法

はじめに

 暴力団組員による特殊詐欺被害に遭ったとして高齢女性6人が4日、山口組の篠田建市組長と弘道会の竹内照明会長を相手取り東京地裁に提訴していたことがわかりました。弘道会会長の責任を問う訴訟は初めてとのことです。今回は使用者責任について見ていきます。

 

事案の概要

 産経新聞によりますと、原告は関東、関西地方に住む77~87歳の女性6人で、平成30年8月~21月に金融庁や地方公共団体の職員を装った嘘の電話を受け、1人当たり100万円~350万円を騙し取られたとされます。事件には山口組2次団体「弘道会」の下部組織の組員が関与しているとされ、騙し取った金銭の一部が弘道会にも渡っており、組織ぐるみで特殊詐欺を行っている可能性があるとのことです。実行犯を含む組員8人は詐欺罪などで起訴され既に有罪判決が確定しております。原告らは両組の組長を相手取り計約1346万円の損害賠償を求め東京地裁に提訴しました。

 

使用者責任とは

 民法715条1項によりますと、事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしております。使用者は被用者の活動によりその事業を拡大して利益をあげているのであるから、それによる損失も負担すべきとの、いわゆる報償責任や、被用者を用いて事業を拡大していることから、個人事業よりも社会的な危険も増加させていることから、その危険も負担すべきとする危険責任の原理が趣旨と言われております。他社を使用することによって利益だけでなく、危険も増加するということです。以下具体的に要件を見ていきます。

 

使用者責任の要件

 使用者責任が成立するためには、まず使用者と被用者との間に使用関係がることが必要です。これは雇用や委任といった契約関係だけでなく、事実上仕事をさせているに過ぎない場合も含まれるとされ、実質的な指揮監督関係があれば良いと言われております。次に被用者が第三者に加害したことが必要ですが、被用者自身に不法行為の一般的要件が満たされている必要があります(709条)。そして被用者の加害が「事業の執行について」なされたものである必要があります。この点について判例は、客観的に行為の外形を標準として被用者の職務の範囲内かを判断しております(外形標準説、最判昭和40年11月30日)。被用者の行為が会社の事業として行なわれているとの相手方の信頼を保護しようとする趣旨です。そのため相手方に悪意または重過失があれば責任追求はできないとされます。反面自動車事故といった事実行為についても認められております。

 

暴対法上の使用者責任

 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)31条の2第1項によりますと、指定暴力団の団員が所属する暴力団の威力を利用して、他人の生命、身体または財産を侵害して資金を得たときは、暴力団の代表等も損害賠償の責任を負うとしております。これは被害者が暴力団の代表に使用者責任を追求際、本来組員と代表との使用関係や加害行為が暴力団の事業について行なわれたことを立証する必要がありますが、これらの立証責任を転換し、負担を軽減しようというものです。この規定の「威力を利用して」とは本来恐喝や強要行為を意味しておりますが、近年は広く解釈され、威力を利用して共犯者を集める場合も含まれ、詐欺行為といった直接暴力団の威力を示さない行為にも該当するとされます(水戸地裁令和元年5月23日)。

 

コメント

 本件では既に実行犯である組員が詐欺罪で起訴され有罪判決が確定しており、所属している組も判明しております。そのため組の代表者への使用者責任追求も暴対法の規定が使われることとなり、山口組や弘道会の代表者側が使用関係が無いことや事業のためのものでないこと、また過失がないことなどを立証する必要があります。今後これらの点が争点となってくるものと考えられます。以上のように、被用者が第三者に損害を生じさせた場合は、使用者も責任を負うことがあります。それが指定暴力団である場合には要件が緩和されております。使用者責任は自社の従業員が損害を生じさせた場合だけでなく、自社が損害を受けた場合等でも重要となります。その要件等を予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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