国東市の市有地が27年間未登記、不動産と登記について
2021/09/13 不動産法務, 民法・商法, その他

はじめに
大分県国東市の温泉宿泊施設の土地が27年間未登記であったことがわかりました。現在の所有者は相続により395人に膨れ上がっているとのことです。今回は不動産と登記について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞のによりますと、大分県国東市の温泉宿泊施設「国見温泉あかねの郷」は合併で国東市となる前の旧国見町が1995年に町営施設としてオープンしました。旧国見町は当施設建設のため94年に山林など25筆の土地を1500万円で購入し、そのうち13筆は旧所有者と共同で所有権移転登記をしたとされます。しかし山林共有組合から購入した10筆と個人から購入した2筆については未登記のままだったとのことです。市が将来の売却に備えて調査したところ未登記が発覚し、現在の所有者は相続によりすでに395人に膨れ上がっていたとされます。市は個別の交渉は困難と考え時効取得を根拠に裁判での登記を目指す方針です。
所有権の移転と登記
民法177条によりますと、不動産に関する物権の得喪および変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができないとされております。これは当事者以外の者に対しては、登記しなければ所有権を取得したことを主張できないということです。登記事項が生じた場合、一定期間のうちに登記する義務が生じる商業登記と異なり、不動産登記は原則として当事者の任意となっております。土地を購入してもあえて登記をせず放置することも可能ということです。しかし登記をしない間に第三者に二重譲渡されてしまった場合、その第三者には所有権を主張できず、さらには先に登記を備えられてしまった場合はもはや所有権すら第三者に取得されてしまうこととなります。そのため不動産登記もできるだけ速やかに備えることが望ましいと言えます。
判決による登記
不動産登記は原則として登記権利者と登記義務者が共同で行うことになります(不動産登記法60条)。登記権利者とは売買で言えば所有権を取得した買い主、登記義務者は所有権を失った売り主ということです。しかし登記義務者が登記に協力せず、登記できないといった事態も多く発生します。そこで裁判所に訴えて、判決により登記をすることが可能です。この場合、「被告は登記手続きをせよ」との判決を求めることとなりますが、判決が確定すれば実際に被告が登記所に出向いて手続きをする必要はなく、判決確定で被告の登記申請の意思表示がなされたとみなされます(民事執行法177条)。そのため勝訴した原告は、確定証明書を付けた判決書正本を添付して単独で登記申請をすることとなります。
判決と中間省略登記
所有権がAからBへ、そしてBからCへと順次移転した場合、中間のBを飛ばしてAからCに直接移転登記を行うことを中間省略登記と言います。本来不動産登記は権利変動を忠実に公示することが求められていることから、このような登記は望ましいものとは言えません。この点について最高裁は、中間者を含めたABC全員の同意があればCはAに直接移転登記を請求できるとしております(最判昭和40年9月21日)。また中間者の同意なく既に行われた中間省略登記についても、すくなくとも現在の権利関係に合致していることから、中間者は抹消登記を求めることはできないとしております(最判昭和35年4月21日)。このように裁判所は原則として中間者を含めた同意があれば認めております。しかし不動産登記実務上は同意があっても認めておらず、判決がAからCへの登記を直接命じた場合のみ認めております(通達昭和35年7月12日第1580号)。
コメント
本件で、27年前に行われた温泉施設用地の買収で、12筆の土地が未登記のまま放置されておりました。登記簿上の所有者は計35人であったものの、27年間で相続が生じ、現在では395人にも膨れ上がっているとのことです。国東市は個別の交渉は困難と考え時効取得を根拠に判決による登記を目指しているとされます。相続人全員に訴状が送達され、異議がなければ欠席裁判となる可能性が高いと考えられます。以上のように不動産登記は原則として当事者の任意とされ、放置することも自由です。しかし長年放置した場合、いざ登記するとなると当事者が膨れ上がって困難な状況となります。また不動産登記法改正により2024年を目処に相続を知った日から3年以内に登記が義務付けられることとなります。今後の用地買収だけでなく、現在の自社の所有不動産についても登記状況を今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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