ドンキホーテ前社長を逮捕、金商法の取引推奨規制について
2020/12/07 金融法務, 金融商品取引法, その他

はじめに
東京地検特捜部は3日、ドンキホーテホールディングスに対するTOBを巡り、公表前に知人に同社株の取引を進めたとして同社前社長を金商法違反の容疑で逮捕していたことがわかりました。取引推奨容疑での立件は今回が2例目とのことです。今回は金商法が規制する取引推奨について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ドンキホーテHDの前社長大原孝治容疑者(57)は2018年9月、ファミリーマートによるドンキホーテ株の公開買付(TOB)の発表前に知人男性に同社株の購入を勧めた疑いがもたれているとされます。それにより知人男性は同社株を計7万6500株を計約4億3000万円で買い付けました。ファミリーマートによるTOBは不調に終わったものの知人男性は約6000万円の利益を得ていたとのことです。大原容疑者は知人男性に利益を得させる目的はなかったと主張しております。
取引推奨とは
会社幹部等が株価に影響を与える未公開の重要情報を知り、利益を得させる、または損失を回避させる目的で株式の購入や売却を勧める行為を取引推奨と言います。証券会社が顧客に公表前の情報を漏らしていた問題が発覚し平成25年金商法改正で新たに盛り込まれた規制です。インサイダー取引は会社関係者や公開買付関係者等、会社の内部情報を知りうる立場の人間がその立場を利用して公表前に株取引を行い利益を得るというものですが、取引推奨はいわばインサイダー取引の教唆犯的性質のものと言えます。従来このような行為を直接規制する規定は置かれておりませんでしたが近年同様の事例が頻発し法改正に至ったと言われております。
取引推奨の要件
取引推奨の具体的要件は、①会社関係者(元関係者も含む)が、②重要事実を知り、③当該重要事実の公表前に他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的で、④他人に重要事実を伝達または売買等を勧めることとされております(金商法167条の2第1項)。公開買付の関係者も公開買付の事実に関して同様の規制が置かれておりす(同条2項)。なお重要事実を伝えた相手方がさらに別の他人に伝えて取引が行われても規制対象外となります。また本規制は他人に利益を得させる等の目的で行われることを必要とし、家族や知人との世間話、業務上の情報交換、IR活動による推奨行為は対象外とされております。退職等で会社関係者でなくなった場合もその後1年間、公開買付関係者が関係者でなくなった場合もその後6ヶ月規制の対象となります。
違反した場合
本規制に違反した場合には罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金、または併科となっており法人に対しても5億円以下の罰金が規定されております。また課徴金納付命令がだされる場合もあります(197条の2第14号、15号、175条の2)。ただしこれらの罰則は情報伝達や取引推奨を受けた者が実際に公表前に株式取引を実行しなければ科されません。なお情報伝達や取引推奨を受けた相手方はそれに基づいて取引を行った場合でも規制の対象外となります。
コメント
本件でドンキホーテの前社長はファミリーマートによりTOBが行われることを知り、公表前に知人に同社株の購入を勧め、その知人もそれにより同社株の売買を行って約6000万円の利益を得たとされております。前社長は利益を得させる目的を否定しておりますが。これらが事実であった場合は取引推奨に該当する可能性は高いと考えられます。以上のように株価に影響を与えうる重要事項を知る立場にある者は厳格な規制が適用されます。公表前に自ら株取引を行って利益を得ることはインサイダー取引に該当するという点は一般に知られておりますが、他人に教えて取引を勧める行為も同様に規制された点はいまだ認知度が低いと言えます。社内での周知だけでなく、重要事実が発生した場合はできるだけ速やかに公表し事前に違反行為を予防していくことが重要と言えるでしょう。
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