オリンパス粉飾で旧経営陣3人に594億円、役員の対会社責任について
2020/10/28   商事法務, コンプライアンス, 会社法, その他

はじめに

オリンパスの粉飾決算事件をめぐる旧経営陣への損害賠償請求事件で最高裁第1小法廷は原告・被告双方の上告を退けていたことがわからりました。これにより菊川剛元社長(79)ら3人に計約594億円の賠償命令が確定しました。今回は会社役員の対会社責任を見直していきます。

事案の概要

 オリンパスは2011年当時社長に就任していたマイケル・ウッドフォード氏による告発により、旧経営陣らによる不透明な企業買収と会計処理が行われていたことが明るみとなり、同年11月、弁護士や公認会計士からなる第三者委員会の設置にいたりました。第三者委員会の調査では、同社はバブル崩壊当時の多額の損失を処理するため、実態とはかけ離れた額での企業買収を行い、特別損失として計上して減損処理をするといった粉飾を繰り返していたことが判明しておりました。菊川元社長および長森元副社長に対しては既に有罪判決が出されております。

会社法上の役員等の責任

 取締役等の役員は会社に対して善管注意義務や忠実義務を負っております(会社法355条)。これに違反し会社に損害を生じさせた場合には会社に対し損害の賠償義務を負います(423条)。これを任務懈怠責任と言い、独禁法や金商法などに違反する行為、また競業取引や利益相反取引も該当することになります。それ以外にも配当可能額を超える違法配当や利益供与行為についても責任が規定されております。なお取締役としての経営判断のミスにより会社に損失が生じたとしても常に責任が生じるわけではありません。その当時の具体的状況に照らして、十分な情報収集や調査がなされたか、それに基づいて不合理な意思決定が行われなかったかなどを考慮して判断されることとなります(経営判断原則)。

株主代表訴訟

 上記のように役員等は会社に対し様々な責任を負っております。その責任を追求するのは原則として会社自身ですが、役員同士の仲間意識などから十分な責任追及がなされないことも多いと言えます。そこで株主が会社に提訴請求を行い、60日以内に会社が提訴しない場合は株主が自ら会社に代わって提訴することができます(847条)。なお60日待っていたのでは回復不能な損害が生じる場合は60日経過を待たずに提訴できます(同条5項)。会社が提訴しない場合、株主の請求により提訴しない理由を通知する必要があります(同条4項)。提訴された場合、会社や他の株主はその訴訟に参加することができます(849条1項、2項)。代表訴訟が株主の悪意による場合は、その疎明を行うと裁判所は当該株主に担保提供を命じることができます(847条7項、8項)。

役員等の責任の一部免除

 上記役員等の損害賠償責任は、株主全員の同意があれば全額免除することが可能です(424条)。しかし実際に株主全員の同意を得ることは現実的とは言えません。そこで株主総会の特別決議、取締役会決議、責任限定契約のいずれかによって責任を一部免除することもできます。取締役会決議および責任限定契約による場合はその旨の定款規定が必要で、取締役会決議による場合はさらに監査役や監査等委員、監査委員のいずれかが設置されている必要があります。一部免除がなされた場合も最低責任限度額は支払う必要があり、これは役職によって異なります。代表取締役で役員報酬の6年分、それ以外の業務執行役員等で4年分、それ以外の役員で2年分となります。なおいずれの場合も一部免除を行うには善意無重過失であることが必要です。

コメント

 本件でオリンパスはバブル崩壊時の巨額の損失を企業買収による失敗という形で特別損失として計上して粉飾を行っていたとされております。主導していた菊川元会長ら3人は金商法違反によりすでに有罪判決を受け確定しております。今回の会社および株主による責任追及の訴えで、二審はこれら刑事事件による罰金等も会社の損害として扱い、計約594億円という代表訴訟史上類を見ない高額判決が最高裁によって確定しました。オリンパスの定款では取締役会による責任一部免除の規定が置かれておりますが、故意に違法行為を行っていた本件では対象外となると考えられます。以上のように会社役員は会社に対し重い責任を負っております。近年株主による代表訴訟も増加傾向にあると言われております。役員の責任やその一部免除、株主からの訴訟など、正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。

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