検察審査会が不起訴不当、過労死と役員等の責任について
2020/09/17   労務法務, 民法・商法, 労働法全般, その他

はじめに

西日本高速道路(NEXCO西日本)に勤務していた男性(当時34)の過労自殺をめぐり、業務上過失致死容疑で告発されていた当時の上司や役員らの不起訴処分に対し、検察審査会が不起訴不当の議決をしていたことがわかりました。過労死事件では異例の判断とのことです。今回は過労死と役員等の責任について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、亡くなった男性は2014年10月から第二神明道路事務所の改良課に異動し、道路工事監督などの未経験の仕事を多く担当するようになり長時間労働が常態化するようになったとされます。男性は毎月100時間超の時間外労働が続き、極端な例では午前7時半から午後5時20まで勤務した後、10分後から翌朝午前5時まで工事現場監督を務め、さらにその8分後から翌日勤務開始という日もあったとのことです。男性はうつ病を発症し翌年2月に社宅で自殺したとされます。労基署は同年12月に労災認定し、男性の遺族が2017年2月に業務上過失致死容疑で告発しておりました。

過労死と過労死ライン

 労働者が死亡または自殺した場合に、時間外労働時間と死亡との因果関係の判定に用いられる基準を一般に過労死ラインと呼びます。具体的には、健康障害の発症2~6ヶ月間で平均80時間を超える時間外労働をしている場合、または発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える時間外労働をしている場合とされます。さらにそれ以外でも発症前1ヶ月ないし6ヶ月間にわたっておおむね45時間を超える場合、その時間が長くなるほど関連性は強まるとされます。これは平成13年12月12日の厚労省通達でも出されており、また雇用保険給付手続における会社都合退職の判断基準でも同様のものが使用されております。

過労死と責任追及の流れ

 会社の従業員が過労死した場合、遺族側の会社に対する責任追及の流れは次のようになります。まず従業員の死について労災認定を取ることが目指されます。次に損害賠償を求めることとなります。この損害賠償請求の法的根拠としては、民法の不法行為(709条)や安全配慮義務違反などが考えられますが、会社法429条1項により役員等に賠償請求をした事例も存在します。この規定は役員等が職務遂行について悪意または重過失があり、それにより第三者に損害が生じた場合に賠償責任を課しております。この第三者には取引先や株主などのほかに従業員も含まれるとされます。そして最後には刑事責任の追求が模索されます。

役員等の刑事責任

 会社が従業員に法定時間を超えて労働させていた場合(36協定分含め)、労働基準法では罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められております(119条1号)。しかしそれでは軽いとして刑法の業務上過失致死罪(211条1項)で告訴する例があります。刑法211条1項によりますと、業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金となっております。ここに言う過失、「注意を怠り」とは結果予見可能性を前提とした結果予見・回避義務違反とされます。しかし過労死事例でこの過失と死亡の因果関係等を立証することは非常に困難とも言われております。

コメント

 本件で死亡した男性の遺族は当時の会社役員や上司らを業務上過失致死の容疑で神戸地検に告訴しておりました。しかし神戸地検は2018年11月に刑事責任を立証できるほどの因果関係があるとは言えないとして全員につき不起訴処分としました。これに対し検察審査会は会社による勤務時間管理の不徹底などを指摘し、刑事責任追求すべきとしました。上記のとおり過労死事例ではこれまでもたびたび会社役員や上司を刑事告訴する例が見られました。しかし実際に立件された例は無く、役員等の刑事責任追求は困難と言われておりました。そんな中での今回の議決は異例の判断とされており注目が集まっております。今後経営者や上司等への刑事責任追求に法政策が傾く可能性もあると言えます。今一度自社の勤怠管理や労務政策を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

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