ニチイ学館が上場廃止へ、MBOの手法について
2020/08/24 商事法務, 戦略法務, 会社法, その他
はじめに
介護大手のニチイ学館は18日、米投資ファンドとともに実施していたTOBが成立したと発表しました。これにより発行済株式の82%が集まったとのことです。今回はMBOとその手法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ニチイ学館は今年5月米ベインキャピタルと組んでMBOを行うことを決定しておりました。介護業界において人手不足が深刻化するなか、社外からの人材を投入して収益力を強化する狙いとされます。同社ではTOB(株式公開買付)によって株式を買い集め、その後上場廃止を経て一部の投資ファンドが再出資する予定とのことです。現在自己株式をのぞいた発行済株式の82%の応募があり、近く上場廃止となる見通しです。
MBOとは
MBOとは「manegement buyout」の略で、取締役等の経営陣が参加して自社の株式を買い集め、会社の支配権を獲得して上場廃止することを言います。通常、上場会社では多数の投資家や投資ファンド、金融機関などの株主が存在し、経営陣はそれら株主の意向に従って経営方針を決定し会社運営を行います。多くの株主の利害の調整を要することとなり、柔軟で機動的な運営が難しくなるとも言えます。そこで発行済の株式を経営陣とそれに賛同する投資ファンドで買い集め、上場廃止としてしまうことで経営の自由度を抜本的に上げることが可能となります。その後十分に企業価値が高まれば、再び上場して企業規模を拡大することも可能です。
MBOの流れ
通常MBOの流れは次のようになります。まず経営陣は自社の株式の受け皿となる特別目的会社(SPC)を設立します。株式を取得するための資金を調達し、SPCが対象となる会社の株式の買取を行います。その後上場廃止しSPCが対象会社を子会社化するか合併することによりMBOは完了となります。株式の取得は通常二段階に分かれており、まずTOBで株式を広く買い集めます。その後取得しきれなかった残りの株式を株式併合などの手段で強制的に取得していくこととなります。以下具体的に見ていきます。
株式取得方法
TOB後に残りの株式を強制的に取得する方法は全部取得条項付種類株式として取得する方法、株式併合による方法、そして特別支配株主の売渡請求制度を利用する方法に分けられます。全部取得条項付種類株式による場合、まず定款変更して発行済の全ての株式を全部取得条項付種類株式に変更し、経営陣以外の株主には1株に満たない端数株が対価として交付されるようにし、端数株は金銭処理をすることとなります。株式併合を利用する場合は、経営陣以外の株主の株式が1株に満たない端数株となる割合で株式併合を行い、やはり端数株は金銭処理となります(会社法234条4項)。これらを行うには株主総会の特別決議を要し、議決権の3分の2の確保が必要です。総株主の議決権の90%以上を獲得できた場合は特別支配株主として残りの株式の全部を自己に売り渡すよう請求することができます(179条~179条の10)。これは平成26改正で導入された制度です。TOBで何%まで獲得できたかによってどの手法を使うかが変わってきます。
コメント
本件でニチイ学館が行っていたTOBにより、17日までに82%の株式が集まりました。この後上場廃止となる見通しです。その後の予定についてはまだ発表されておりませんが、株式併合などによって残りの株式の取得が行われるのではないかと考えられます。株式の強制取得はいずれの手法を取るにしても、反対株主の買取請求や価格決定申し立て、無効の訴えなど株主保護の制度も設けられております。立場の弱い少数株主を保護することが趣旨で、不当に低廉な価格で株式を買い叩くといったことを防止しております。少数株主の権利も考慮しつつ、柔軟で機動的な経営再建を図る手段としてMBOの手続き等を把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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