“ディスカバリー制度”は日本に馴染むか?
2015/11/12 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

1.はじめに
日本版クラス・アクションである被害回復裁判手続に関する特例法(消費者裁判)の施行まで1年を切った。不特定多数の被害者が出現する消費者訴訟の簡便化・迅速化を制度目的として、欧米で利用されている法制度を日本に馴染むようリサイズしたものであるがどこまで馴染むのかは未知数である。
さて、同様にしばしば議論の俎上に上る米国の法制度としてディスカバリー制度がある。今回は現行法制度と米国のディスカバリー制度との相性を探ってみたい。
2.ディスカバリー制度(請求開示)
知財訴訟では多くの証拠が被告側に偏在している。専門的事項も多く、原告が侵害行為を立証するには相手方当事者の協力が不可欠である。そこで立証の容易化のために証拠開示を相手方に要求するディスカバリー制度を導入すべきではないかと言われるのである。
ディスカバリー制度とは、公判前に相互当事者間で証拠の開示請求ができるというものである。具体的な手段としては①証言録取②質問書③文書提出及び調査のための土地立ち入り④身体及び精神検査⑤自白要求がある。
原則として当事者間の協議により行われ、協議が整わない場合に、裁判所が開示命令を発し、又は保護命令を発して開示を制限することになる。開示請求に応じない場合には、①裁判所侮辱の制裁(拘禁・罰金)、②争点・主張・請求について不利な認定をする、③不履行のために相手にかかった弁護士費用を含む。このように、強制力や制裁が伴うため、争点整理や透明性の確保の担保として機能している。この制度により、実際の公判にかかる時間は数週間で済むため裁判の迅速化にも資している。
他方で、知財訴訟では莫大な量のディスカバリーに対応する資料が要求されるため、正比例的に弁護士費用も嵩む。原告にとっては証拠開示を請求することで、訴訟における透明性の担保を得ると同時に金銭的解決方法である和解への道を開く一助となっている。そのため、実質的には早期和解を図るシステムとして機能している。
3.日本の法制度上の変化
日本法上も何ら動きが無いわけではない。平成16年改正により、民事訴訟法には争点整理や証拠収集の迅速化の観点から、訴え提起前の照会(132条の1、2、3)及び訴え提起前の証拠収集のための処分の手続(132条の4)が導入された。正当な理由あって拒絶する場合には特段の制裁は無いが(163条のいずれかの号の事由)、虚偽の回答をした場合には弁論の全趣旨として考慮されて不利な扱いがされる。ただし、いずれも強制力は無く、違反した場合に罰金を課すなどの制裁は無い。このため、ディスカバリー制度と比して効力としては弱いといわざるを得ない。
尤も、従来の制度について適用範囲を拡大するという手段もある。例えば、文書提出義務の範囲の拡大である。また、ディスカバリー制度の濫用という制度の前提は欠くものの、当然開示(ディスクロージャー)や新たな証拠収集手段を導入する余地というものが無いわけではない。
法制度の枠組みを作る上では、訴訟と言われると、勝訴か敗訴か、という二極化した結果に目が行きがちであるが、白黒付かない和解は決して“負け”ではない。訴訟は莫大な時間的・経済的コストを要するものであり、勝ちと引き換えに失うものも大きいことを考慮すると、ディスカバリー制度に魅力を感じる反面、それに付随するリスクを考慮しなければならない。例として2006年にアメリカで定められた、メールやワード等の訴訟に関わる電子データ等を対象にした“eディスカバリー”に対応する企業の労力を考えてみれば、制度導入に関して熟慮を要することは容易に想像が付くであろう。
4.まとめ
とはいえ、知財訴訟が困難になる理由は上述の法制度上の理由には限られない。特許内容の記載が不明瞭であったり、外国語でのやり取りをする際に翻訳が適切でなかったり、と事務的・事実的理由であったりすることも少なくなくはない。いざ訴訟、となった場合に不本意な結果を生まないためには、企業内部での特許事項の扱いという足元の見直しについても検討を要すると思われる。
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